東京大学(東大)は、2016年12月~2017年2月にかけて、ニューヨーク市で発生した大規模なネコのインフルエンザ流行の原因ウイルスである「H7N2 ネコインフルエンザウイルス」の性状を明らかにしたと発表した。

同成果は、東大 医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕 教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国科学雑誌「Emerging Infectious Diseases」(オンライン速報版)で公開された。

2016年12月、米国ニューヨーク市にある動物保護シェルターで保護飼育されていたネコにおいて、咳や鼻水といった呼吸器症状を主とした大規模な流行が見られた。原因は 1990年代後半~2000年代初めにかけて米国のトリ市場で発生が報告されていた「低病原性 H7N2 鳥インフルエンザウイルス」に由来する「H7N2 ネコインフルエンザウイルス」であることが明らかになった。

  • ネコインフルエンザ

    A型インフルエンザウイルスの模式図。インフルエンザウイルスは8種類の遺伝子をもち、その表面は2つの糖タンパク質、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)に覆われている (出所:東京大学Webサイト)

2017年の2月までに約500匹ものネコがこのウイルスに感染した。また、これらのネコの治療に従事した獣医師のうちの1人が、このウイルスに感染し呼吸器症状を呈したことも報告されていた。しかし、このウイルスが哺乳類に対してどのような病原性を持っているのか、また哺乳類から哺乳類へと伝播する能力を持っているのかについては明らかにされていなかった。

研究グループは今回、動物保護シェルターで飼育されていたネコから分離されたウイルスのin vitro(試験管内の細胞)とin vivo(生体内)における性状解析を行い、1999 年に米国のトリ市場で分離された低病原性 H7N2 鳥インフルエンザウイルスの性状と比較。その後、マウス、フェレットの実験を経て、ネコを用いてウイルスの病原性および伝播力を調べる実験を行った。

その結果、H7N2 ネコウイルスは、鳥インフルエンザウイルス由来のインフルエンザウイルスがネコに感染し、ネコで効率よく増殖できるように、またさらにネコ間で効率よく伝播できるように変異していることが明らかになった。

また、他の哺乳動物でも効率よく増殖でき、フェレット間で接触伝播することから、ネコがヒトを含む他の哺乳動物に、インフルエンザウイルスを媒介しうる中間宿主となりうる可能性があることも示唆する結果が得られた。さらに、インフルエンザウイルスはネコ間で飛沫感染と接触感染の両方により伝播することが分かった。

そのほか、既存の抗インフルエンザ薬に対する感受性を調査したところ、同ウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害剤に対して感受性が高いことが明らかになり、H7N2 ネコインフルエンザウイルス感染には、既存のノイラミニダーゼ阻害剤が有効であることが分かった。

  • ネコインフルエンザ

    ネコを用いたウイルス感染伝播実験。H7N2ネコインフルエンザウイルスを猫の鼻腔内に接種した後、感染動物との接触あるいは飛沫によってウイルスが同居ネコあるいは隣接するケージ内のネコに伝播するかどうかを調べたところ、それぞれ3ペア中2ペアにおいてウイルスが伝播した (出所:東京大学Webサイト)

同成果に関して研究グループは、「ネコを介して起こりうるインフルエンザウイルスによる将来のパンデミック出現予測に役立つだけでなく、今後のインフルエンザ・パンデミック対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となる。また、今後のインフルエンザ流行あるいは新型インフルエンザ流行の予測をするうえで、ネコのもつ役割の重要性が示された」と説明している。