ドイツのナノシステムズ・イニシアティブ・ミュンヘン(NIM)は、貴金属触媒を用いない人工光合成系の開発を行ったと発表した。共有結合性有機構造体(COF:covalent organic framework)を利用する人工光合成系であり、白金触媒の替わりにコバルト錯体の一種コバロキシムが使われている。研究論文は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

  • COF光触媒とコバロキシム共触媒による水素生成プロセス(出所:NIM)

    COF光触媒とコバロキシム共触媒による水素生成プロセス(出所:NIM)

COFは、有機分子が共有結合でつながり、空孔をもった二次元または三次元の高分子構造を形成した構造体である。構造全体は水素、炭素、窒素といったありふれた元素で構成されている。周期的な構造中に有機分子のユニットが原子レベルの精密さで内包されるという特徴から、COFはさまざまな用途に応じてその性質を変化させ調整することができる。光を吸収して触媒反応を進める光触媒としても利用可能である。

人工光合成系において水を分解して水素(H2)を発生させるプロセスでは通常、光触媒とプロトン還元共触媒が用いられる。光触媒としてCOFを用いる場合には、光を吸収したCOFがプロトン還元共触媒に電子を渡しCOFは酸化し、水素が発生する。この後、酸化したCOFはトリエタノールアミン(TEOA)のような犠牲剤から電子を受け取って再生される。

これまで共触媒としては白金のような貴金属触媒が用いられてきたため、これを地球上に大量に存在している安価な物質で置き換える研究が進められている。ただし、これまで貴金属触媒代替の分子共触媒については、光安定性の面で限界があるとされてきた。また、多電子拡散律速型のプロトン還元反応の反応速度は、COFにおける光吸収および電荷浸透プロセスと効率よく共役させる必要があるが、従来の分子共触媒ではこの反応速度が遅いという問題もあった。

今回の研究では、こうした問題を解消し、白金共触媒をコバルト錯体の一種であるコバロキシムに置き換えることができたとしている。コバロキシムは、コバルトにジメチルグリオキシム配位子が組み合わさった錯体である。

光触媒による水素発生プロセスにおいては、コバロキシムはプロトンを還元するための人工的なヒドロゲナーゼの役割を担うとする。論文によると、COF、TEOA、コバロキシム共触媒を用いたときの、水/アセトニトリル混合液中での水素生成速度は1時間・1グラムあたり782μmolであった。また触媒のターンオーバー数(TON)は54.4であった。