理化学研究所(理研)は、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を用いて、マンガンからエルビウム(原子番号25〜68)まで73種の新しい放射性同位元素(RI)を発見したことを発表した。
この成果は同所仁科加速器研究センターRIビーム分離生成装置チームの福田直樹仁科センター研究員、吉田光一チームリーダーらの国際共同研究グループによるもの。4報の論文として掲載され、2報は日本の科学雑誌「Journal of the Physical Society of Japan」(Vol.87 No.1、12月22日付け)に、他の2報は米国の科学雑誌「Physical Review C」(5月号および9月号)に掲載された。
地球上には、金や鉄など天然に存在する安定な原子核が約300種存在する。現在、鉄よりも重い元素(重元素)は、中性子星合体のような特殊な環境下で、原子核が連続的に「中性子を吸収する反応」と吸収された中性子が陽子と電子に変わる「β崩壊」との競合が起こり、その果てに不安定な放射性同位元素(RI)を経由して合成されたと考えられている。
この重元素合成の謎を解明するには、RIのさまざまな性質を調べることが必要である。これまで、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」に設置された、超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)を用いた研究では、2007年に初めて新しいRIを発見して以降、59種の新RIの発見が論文発表されている。
理研を中心とした国際研究グループは、RIBF加速器施設で供給可能なビームの強度がそれ以前の約10倍に増強したこと、BigRIPSの高効率化・高分解能化・高感度化に向けた開発研究を経てRIビームの収集・分析技術を向上したことにより、2011〜2013年に新RIの発見に挑んだ。
実験では、ウラン-238およびキセノン-124ビームを、超伝導リングサイクロトロンで光速の70%まで加速後、標的のベリリウムに衝突させて引き起こされる反応を利用してRIを生成し、BigRIPSで収集・分析し、同定した。その結果、原子番号25のマンガンから68のエルビウムまで、73種の新RIを発見することに成功した。
その後、さらに約62種の新RI候補の生成が確認されており、現在、最終確認に向けた解析を行っている。それが終了すると、総計約194種類の新RIの発見が論文発表される見込みで、これを含めると、RIBFでの2010年以降の発見数は米国・英国・ロシア・ドイツを抑え、大きく加速することになる。
今後は、加速器系やBigRIPSの性能向上を通じて、RIBF加速器施設ではさらなる新RIの発見が期待できるとしている。