三菱電機は12月21日、摩擦帯電による静電気を利用した新型の空気清浄デバイスを開発したと発表した。当日、報道関係者向けに説明会が行われた。
このほど開発された新デバイスは、同社の換気装置向けのもので、外寸は300(W)×300(D)×250(H)。フィルターの手前に取り付けることで目詰まりによる性能低下を抑える機能を持つ。空気中の浮遊物質を効率よく捕集するために静電気の性質を利用するが、電極に電圧をかけることで放電するという、現在主流となっている帯電の仕組みに対して、摩擦を引き起こすことで行うというのが特徴だ。メーカーによると、摩擦による帯電方式の空気清浄デバイスは世界で初めてという。
具体的な仕組みとしては、まずは不織布ブラシを捕集板の間に滑らせることで摩擦による静電気を発生。プラスに帯電した空気中の浮遊物質が-に帯電した捕集板に付着する。捕集板の表面が捕集物質に覆われると帯電性が低下していくが、不織布ブラシがスライドして動くことでそれらを取り除くと同時に、摩擦に寄り再び帯電性が復活する。
集められた物質はダストボックスに溜まり、メーカーの試算では10年程度はメンテナンス不要とのこと。また、自動清掃と再帯電の機構により、空気清浄フィルターの目詰まりを防ぎ、従来は2年に1回交換が必要だったが、10年程度の長寿命化が可能だという。
その他、電極の経年劣化が起きてしまう放電式に対して、部材に安定性・持続性があり、オゾンやNoxも発生しないため、火災のリスクや安全性にも高いことをメリットとして挙げる。
三菱電機では約5年前からこの技術を開発。千葉県にある同社のプラスチックリサイクル工場で培った、選別回収技術が応用されているという。この工場では、ABS(アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン)とPS(ポリスチレン)の2種類のプラスチック破砕片を「帯電筒」と呼ばれる施設の中に投入し回転させることで両者の粒子を摩擦させることで静電気を発生。するとPSはマイナス側、ABSがプラス側に帯電し、それぞれ反対の極に集められていくという流れだ。
同社ではこの静電気制御技術をもとに、粒子に対する流れや静電気力、空気抵抗を考慮した粒子の軌道を解析。「流れ場」と呼ばれる空気が流れて道である空間における粒子の静電気捕集効果の定量化を行い、最適な捕集板の長さなどを検討したという。
加速試験と呼ばれる同社が行ったシミュレーション結果では、摩擦帯電方式の集じん部で70%以上のダストを捕集することでフィルターの目詰まりが低減され、このデバイスがない場合は数年で劣化してしまうものが、10年以上まで耐用可能になるとしている。
在中国日本大使館によると、2017年の北京市、天津市、河北省の年平均のPM2.5濃度は1立方メートルあたり106μgだが、今回発表された摩擦帯電方式の集じんデバイスを採用することで10μg以下まで空気を浄化できるとのこと。
今後はまずは中国において換気空調システムに設置し、フィールド試験を近く開始する予定。現段階では価格などは未定だが、2020年度の事業化を目指す。中国以外の国への展開や、家庭用空気清浄機やエアコンといったコンシューマ向け製品への適用も視野に入れている。
説明会に出席した三菱電機 先端技術総合研究所長の水落隆司氏は「近年、ZEH/ZEB市場規模が増加し、建物の高気密・高断熱化が進展。言ってみれば居住空間は魔法瓶のような状態で室内の空気がよどんでいる。清浄な外気による"換気"がより重要な社会になってくるだろう」と新デバイスの開発の背景を説明。現在、中国の空調市場は年間2兆7300億円にものぼるとし、換気空調システムのさらなる需要の拡大を見込む。
同研究所の環境システム技術部長の古川誠司氏は「摩耗による性能劣化や湿度などの諸条件を加味した静電性など技術的にクリアした上で製品化を実現した」と5年ほどの開発期間を要した理由を説明。「2年に1回のフィルター交換が必要な現状に対して手間を省略できるだけでなく、交換の度に必要な依頼業者への費用も省けるため、トータルコストでも優位になる」と新空清デバイスのメリットを強調した。