インターネットとスマートフォンの普及は、生活のあらゆる部分で「検索」を可能にした。週末までの天気予報、1日のスケジュール、仕事で必要な知識の調査、レシピ、風邪を引いた時の対処方法、未知の言葉の調査など、何をするにしても「検索」だ。そして、検索はわれわれに多くの利益をもたらしている。
そうなると、こうした検索のパワーを仕事に生かしたいと考えるのは当然だ。過去の仕事がすべてGoogle検索のようにデータ化されて検索の対象になっていれば、顧客から問い合わせを受けた時に過去の類似案件を検索し、当時の担当者を調べ出し、さらにほかの事例も検索してよりよい提案を考えることができる。このように、すでに仕事を検索できるようにすることに成功している企業もある。
「仕事で検索」を支える技術の1つがElasticのプロダクトだ。日本ではElasticsearchという製品名のほうが知られているだろう。今回、Elasticの創立者にしてCEOであるShay Banon氏に話を聞く機会を得たので、Elasticで実現できる機能やプロダクトの特徴などを紹介しよう。仕事を進展させる1つのきっかけになってくれるはずだ。
Elasticの特徴は「OSS」「リアルタイム」「ダウンロード&クラウド」
プロダクトやソリューションごとに得意とする用途は違うが、さまざまなデータを取り込んで検索サービスとして提供したり、データを分析および視覚化してビジネスに利用できるようにしたりするソフトウェアスタックやサービスはいくつか存在している。そうしたプロダクトと比較したElasticの特徴は次のようなものだ。
- データの追加がリアルタイムで行え、事前準備などを行うことなく検索や利用が可能
- オープンソース・ソフトウェアとして開発されており、ダウンロードして自由に利用が可能
- クラウドサービスも提供されており、数回のクリックでサービスの利用が開始可能
さらに、機能面におけるElasticの大きな特徴は「リアルタム性」にある。ビッグデータ処理を行うタイプのプロダクトの中には、対象となるデータの取り込みに時間がかかるものもあるが、Elasticではリアルタイムにデータを追加していくことができる。
検索エンジンとしての利用からセキュリティまで
Elasticの典型的な使われ方は検索エンジン。簡単な利用であれば、デフォルトの機能を組み合わせるだけで、すぐに検索システムを構築できるし、グラフ化なども行える。
加えて、この数年で需要が増えているのが機械学習による時系列データの異常検知機能だ。最新のElasticには機械学習機能が搭載されており、時系列データの異常検知を行うことが可能になっている。
「時系列データの異常検知」と言われても、ピンとこない人もいるかもしれない。クレジットカードの利用を例に考えてみよう。クレジットカードの利用データであれば、リアルタイムで集計して、普段と違う行動、つまり他人がクレジットカードを使っているのではないかと疑われる行動を検知する、といった使い方ができる。
機械学習系のサービスは、IT業界で最もホットなジャンルだし、GoogleやAmazonなど大手ベンダーもサービスを公開している。しかしElasticの場合、「時系列データの異常検知」に対応しているところが秀逸だ。Google TensorFlowで同じことをしようとすると、専門知識を持った専門家と実装するためのエンジニアが必要になる。だが、Elasticを使えばもっと簡単に実現できるのだ。異常検知はビジネスでも重要なところだから、活用できれば強みになる。
大事な「ユーザー」と「カスタマー」という2種類の利用者
Elasticは需要の高まりを受けて、企業としても成長している。本稿執筆時点で37カ国に従業員が存在しており、従業員の数は全体で700人ほどだ。うち、エンジニアは300~400人規模とされており(しかも、ほかの担当もエンジニア色が強い)、エンジニア寄りの企業と言えるだろう。
そんなElasticのプロダクトはオープンソース・ソフトウェアとして開発されている。このため、利用者は自由にプロダクトを利用することが可能だ。ElasticではこうしたOSSプロダクトの利用者のことを「ユーザー」と呼び、コミュニティを構築する重要なパートナーと考えている。
一方、サポートを受けたい場合、有償で提供されている機能を利用したい場合はサブスクリプション形式で利用できる。こうした利用者は「カスタマー」と呼ばれ、Elasticのエコノミックエコシステムを構築するメンバーとなる。前述した時系列データの異常検知機能などは、有償機能として提供されている。
日本の企業はオープンソース・プロジェクトやコミュニティとの付き合いが下手なことが多いが、世界的に事業を展開しているIT系企業はオープンソースとの付き合いがうまい。
オープンソース・ソフトウェアとしてプロダクトを公開して多くのユーザーに使ってもらうことで、利用者の裾野が広がり、潜在的な顧客の増加にもつながると考える。また、コミュニティによって積極的に使ってもらうことで、バグの発見や機能要望の洗い出しが行え、結果的に事業にも結びつく。
彼らはこのように考えて、プロダクトを積極的にオープンソースとして公開し、コミュニティとの関係を築く。Elasticもコミュニティを大切な存在と考えており、熱心なユーザーと関係を深めていくことを楽しんでいるようだ。
日本は大切な場所 - これまでも、これからも
Elasticは世界中で事業を展開しており、従業員も世界中にいる。これはElasticの成り立ちを追っていくと必然的な結果だ。米国にも本社を置いたのが最近の話だということを考えると、何とも面白い。もともと多国でサービスを提供するスタイルから始まっているため、ローカルに合わせたサービスを提供しているという点も特徴と言える。
Elasticは日本でも成長を続けており、すでに多くの企業が導入している。今後もビジネスを改善していきたいと考える企業がElasticを使っていくだろう。今年11月に米国ラスベガスで開催されたAmazon Web Servicesの年次イベント「re:Invent 2017」においても、多くの企業がクラウド上でElasticsearchを使っていた。
こうした話を読んで「Elasticは便利そうだが、自分の会社には関係がないようだ」とは思わないほしい。Elasticのプロダクトはオープンソース・ソフトウェアとして公開されており、無料で使うことができる。中小企業や部門レベルでも利用を始めることが可能だ。少しでも興味があれば、まずは試してみてほしい、それがElasticのプロダクトだ。