2017年12月12日~13日の2日間、NVIDIAは開発者向け会議「GTC Japan 2017」を開催した。同イベントの基調講演には、前年に引き続き、ジェンスン・フアン創業者兼CEOが来日して登壇。講演のタイトルは「新しいコンピューティングの時代」である。恰好は、もちろん、トレードマークの黒い革ジャン姿であった。
新しいコンピューティングの時代の最初にフアン氏が取り上げたのが、NVIDIAの「HOLODECK」である。次の図の車はトヨタのLEXUSである。しかし、これは写真ではなく、3次元CADの設計図から生成されたもので、エンジンのねじ1本に至るまですべての部品が揃っている。そして、光の反射はもちろん、車体の塗装の多層膜のペイントの多重反射も含めてレイトレーシングで描画を行っている。したがって、塗装の質感から、外部のものの映り込みを含めて本物そっくりの外観が再現されている。
宙に浮いているように見える3体のロボットのようなものは、3人のエンジニアのアバターである。3人は、それぞれ遠く離れたオフィスにいるのかも知れないが、仮想空間では1か所に集まって、同じLEXUSのイメージを見て、設計を検討する。
つまり、HOLODECKは離れた場所にいる人たちが共同して作業する環境を作りだしている未来のデザインラボである。この機能は、現在、アーリーアクセスでの提供を開始しているという。
続いて取り上げたのが、今年から発売を開始した「Volta GPU」である。最高性能でスパコンなどに使われるTesla V100 GPUは10000ドルほどのお値段と言われるが、12月4日に同じGV100 GPUチップを使う廉価版のTitan VというGPUカードを発表した。HBM2メモリの数はTesla V100は4個であるが、Titan Vでは3個に減らしたことから、GPUメモリが12GB、メモリバンド幅が652.8GB/sに減っている点を除けば、ハイエンドのTesla V100とほぼ同等の性能を維持して2999ドルとお買い得である。
NVIDIAは自動運転の頭脳の開発でも先頭を走る会社である。NVIDIAはNVIDIA DRIVEという名称で、自動運転技術をまとめている。
NVIDIAはVoltaアーキテクチャのGPUを搭載する車載機器のためのXAVIERというSoCを発売している。30TOPSというスパコン並みの性能を30Wの消費電力で実現するNVIDIA DRIVEの機能を実現するハードウェアエンジンである。
さらに、NVIDIAはNVIDIA DRIVEの開発のための開発インフラも整備している。自動運転車の実地走行は必要であるが、大量の走行データを取得するには3Dシミュレーションによるバーチャル走行の方がずっと効率が良い。
インフラの4つの図の左端の絵は、GPUスパコンを使うバーチャル走行でデータを取得する絵である。そして、その大量の走行データを入力としてドライブAIのトレーニングを行う。トレーニングが終わったら、その結果作られたAIにバグがないかを3D走行シミュレーションで確認する。問題がないことが確認されれば、実車に新たな学習結果をロードして公道走行を行う。
この過程の最初の3つのステップは、NVIDIA社内に設置されたGPUスパコンを使って、加速して実行される。なお、水を差すようであるが、これらの図に見られる筐体が並んだスパコンの図は不自然で、CGで作られたフェイクであると考えられる。
そして、フアンCEOは、AI革命が始まったと述べて、次のスライドを示した。左端は、AI計算能力を強化したVoltaアーキテクチャのGPUの登場で、AI計算能力が大幅に上がり、AI革命を大きく推進することに貢献している。そして、左から2番目のNVIDIA DRIVEの図は、ドライビングでGPUが、今、何ができるかを示している。
日本国内でも、FUNACはAI搭載の自律ファクトリをNVIDIAと協力して開発する。また、コマツもAIを使って、大型の鉱山機械や農機などを自律制御する。そして、富士通と産総研は、Voltaを使うABCIスパコンの開発を進め、日本のAI研究を推進する開発を行っている。
今回の基調講演では、新しい発表は少なかったが、ディープラーニングによるAIに対するNVIDIAのコミットメントを再確認する基調講演であった。