マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームは、1200Vの高電圧で動作する窒化ガリウム(GaN)半導体パワーデバイスを開発したと発表した。電気自動車や電力網へのGaNパワーデバイスの応用につながると期待される。技術の詳細は「International Electron Device Meetintg(IEDM 2017)」(12月2日~6日、米カリフォルニア州サンフランシスコ)で報告された。
MIT、半導体企業IQE、コロンビア大学、IBM、シンガポール国立研究財団とMITの共同研究センターであるThe Singapore-MIT Alliance for Research and Technology(SMART)などが研究に参加した。
GaNパワーデバイスは、従来のシリコンよりも電力変換の効率が高く、デバイスを小型化できるという特徴がある。ただし、既存のGaNパワーデバイスは動作可能な電圧が600V程度までであるため、その利用は家電製品など低電圧用途に限られていた。
研究チームは、より高電圧の用途でGaNパワーデバイスを利用できるようにするため、デバイス構造を従来の横型から縦型に変更したと説明している。
GaNウェハーの表面にデバイス全体を形成する横型デバイスでは、電流を流したときに発生する熱がデバイス中の極めて狭い領域に集中してしまうため、大電流高電圧動作にともなう発熱によってデバイスがダメージを受けるという問題がある。一方、デバイス構造を縦型にすると、熱がデバイス全体に拡散されるので、発熱によるダメージを避けてより高電圧大電流で使用できるようになる。
縦型デバイスのほうが高耐圧にできることは以前から知られていたことであるが、GaNを使って実際に縦型デバイスを作るのは困難だった。縦型GaNトランジスタの形成法としては、GaN中に物理的な障壁を埋め込むことによって電流の方向を制御し、ゲート部直下のチャネル部だけに電流を送り込む方法などが試みられてきたが、物理障壁に用いる材料が高価で作製が難しく、また障壁材料が周囲のGaNに影響してトランジスタの電子特性が乱されるといった問題があった。
研究チームは今回、GaN内部に物理障壁を埋め込んで電流の方向を制御するのではなく、ブレード状のフィン構造をウェハー表面に縦に立てて並べるという方法を採用した。この構造では、フィンの両側がゲート電極となって、トランジスタのゲート部として機能する。フィンの縦方向の上側がソース、デバイス底面がドレインとなって、電流はフィンの縦方向に流れるので、ゲート電圧の制御によって、電流をオンオフするスイッチング動作が可能になる。
フィンの幅は220nm程度と狭い。相対的に大きなデバイスの内部に物理障壁を埋め込んで微小なチャネル部に電流が集中するように制御するという従来のやり方と比べると、デバイス自体を最初から小さく作っていることになり、異種の障壁材料を使わなくて良いので単純化できるという。
作製された1200V耐圧のGaNパワーデバイスは、すでに電気自動車向けに使用可能な性能である。研究チームは、今回のアプローチを使ってさらに高耐圧にすることも可能であるとしていて、3300~5000V耐圧といった電力網向けパワーコンバータにも適用できる性能を実現できると予想している。