UX(ユーザーエクスペリエンス)がさまざまな領域で問われるようになって久しい昨今、アドビが従来のデザインツールに加え、UX/UIに特化した「Adobe XD CC」(以下、XD)というツールを提供している。これを採用している企業のひとつに、ライゾマティクスの中でも問題解決を行う部門「ライゾマティクスデザイン」がある。
今や多岐に亘る領域でクリエイティブやブランディングを提供する同社は、どのように同ツールを活用しているのだろうか。本稿では、アドビのクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX Japan 2017」において公開された、「ライゾマティクス デザイン」において主にクリエイティブディレクターとして各種プロジェクトに携わっている、清水啓太郎氏のプレゼンテーションの様子をお届けする。
「課題を解決できるツール」を採用
ライゾマティクスは現在、手がける仕事の性質に応じて3部門に分かれている。メディアアートなど技術と表現の可能性を探究する事柄は「ライゾマティクス リサーチ」が、設計やコンテンツ開発、空間、都市といった空間のあり方にまつわる内容は「ライゾマティクス アーキテクチャー」が、そして商品開発やプロモーションなどをクライアントと作り上げていく仕事は「ライゾマティクス デザイン」が手がける。
今回登壇した清水氏は、前述の通り「ライゾマティクス デザイン」に所属。ハードからソフトまで、画面からフィジカルまで「最高のチームをつくって実現する」というスタンスだ。各員がプロとしての軸を持ちつつも、緩やかに役割を横断するのが特徴で、必要に応じて清水氏はWebディレクターのような立ち回りもすれば、プロダクトデザインもすることがあるという。そのため、目的に即したツール選びが重要となり、「課題を解決できるツール」としてXDを導入したという。
XD導入前は、企画~構成、クライアントチェックまでは、PowerPointなどのプレゼンテーションツールを用い、それを経てデザインに入る段階でアドビツールが登場していた。一方、導入後は構成・ワイヤーフレームをXDで作ることで、クライアントが完成図を想像しやすい状態で確認に出せるため、コミュニケーションの精度、スピードが格段に向上したと語った。
「全自動衣類折りたたみ機」のプロジェクトで活用
最近では、ビジュアル周辺のみならず、ブランディングに踏み込むような仕事も多いという。中でも、全自動衣類折りたたみ機「Laundroid(ランドロイド)」を発表し一躍話題の企業となった「seven dreamers」に関しては、複数の異なるセグメントの製品におけるブランディングに携わった。
「seven dreamers」について、「3つの領域にまたがって展開しており、外からは全容が見えにくいのはライゾマと似ている」と語る清水氏。フルオーダーメイドのカーボン・ゴルフシャフト、いびきを防ぐ一般医療機器「nastent」、そして全自動衣類折りたたみ機「Laundroid」という3つの主軸を持っている。
「Laundroid」のプロジェクトは特に特殊な進め方をしたということで、清水氏が現職以前にパナソニックで家電のデザインを手がけていたこともあり、プロダクトデザインやWebの画像などまで制作。XDのコメント機能なども使い、意思疎通に利用した。「自分の作品のポートフォリオを作る感覚でXDを使って構成し、Webデザイナーにそれを料理してもらった感覚です」
XDというツールに関して、11月にリリースされたデザインコードの公開により、コーダーへの引き継ぎまでカバーされたことを絶賛した清水氏。プロジェクトの前半におけるクライアントとのコミュニケーションが円滑に進むことで、後半のデザイン工程に注力でき、それを手がけるデザイナーも、成果物を受け取るクライアントもハッピーになる、と評価した。
また、クライアントのみならず、チーム内においても同じツールでコミュニケーションを取ることができ、進行におけるロスが減ったこともつけくわえた。今後のXDに期待することとしては、クリックしてページ内を移動するページ内スクロールのインタラクションの実現や動画の埋め込み、パララックスへの対応などを挙げた。
そして最後に、今回のプレゼンテーションのスライド自体をXDで作っていた、と最後に種明かしをした清水氏。ただ、現状は「動画埋め込み」などが行えなかったため、Keynoteと併用したとコメント。これからのアップデート次第では、プレゼンテーションツールとしても使えるかもしれない、とコメントし、場を締めくくった。