不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S(ライフル ホームズ)」で知られるLIFULLがAI活用を本格化させている。今年10月には、B2Bマーケティング分野でAI分析ツール「AIXON」を使ってターゲティング精度を向上させる取り組みをスタートさせた。予測モデルの検証やチューニングを重ねながら、HOME'Sサイト全般での活用に広げていきたい考えだ。
新体制で新たなデータ戦略を推進するLIFULL
LIFULLは今年4月に新社名に変更し、スローガンとして「世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニーを目指す」ことを掲げた。また、新しい組織として、ライフデータベースの構築や活用方法について戦略を立案実行する「グループデータ戦略部」を設置した。グループデータ戦略部を統括し、LIFULLのChief Data Officer(CDO)を務める野口真史氏は、同社のデータ戦略についてこう話す。
「ライフデータベースとは、ユーザーやコンシューマーにまつわるさまざまなデータを収集したものです。今まではデータベースといえば、不動産や住宅の物件情報を指していました。今後はそれらに加えて、ユーザーやコンシューマーのデータを含めてさまざまなデータを集め、それらをサービスに生かしていこうとしています。そのためのデータベースをどう作っていけばよいか、どうすれば活用できるかを考えるのがグループデータ戦略部です」
LIFULLでは、不動産・住宅を探しているユーザーに対してWebサイトを展開するだけでなく、それら物件を扱う不動産会社に対してもマーケティング支援事業などを展開している。具体的には、HOME'Sのユーザーがサイト内でどんな行動をしていたかを分析し、そこから得られた知見やノウハウを不動産会社に提供したり、一度サイトを訪問し離脱してしまったユーザーに対しどういった広告を出せばうまく誘導できるかなどを提案したりする。グループデータ戦略部が設置されてからは、このB2B向けマーケティング事業を戦略的に拡大していくことが大きなテーマになった。
「マーケティング支援の事業をより成長させるには、ユーザーやコンシューマーのライフデータをどう集めてどうサービスを作るかがポイントとなります。そのためには、これまで人の手で行っていたデータ設計や分析などの作業を自動化して、より精度を高めていく必要がありました。そこで、AIが使えないか考え始めたのです」
AIでターゲティングの精度を高めたい
LIFULLでは、AIなどの新しいテクノロジーを研究開発し、活用を推進していくための組織として「AI推進ユニット」や「LIFULL Lab」などを設置している。これらには研究開発職やデータサイエンティストらが集い、中長期的なプランとビジョンでイノベーションを推進することをミッションとしている。一方、グループデータ戦略部やCDOが担う役割は、先端技術をビジネスの現場に適用し、ビジネス目標を達成する戦略を練ることだ。
具体的には、グループデータ戦略部は現在、不動産会社向けのマーケティング支援と、ライフデータを活用するための基盤づくりという大きく2つの機能を担っている。人員は、ビジネスの現場にいた者が中心で、データサイエンティストと呼べるようなスキルを満たした人材はいないという。限られたリソースのなかで、どのようにしてAIを活用したデータ分析の高度化に取り組んでいくか。
そんななか採用されたのが、台湾のAIテクノロジー企業Appier(エイピア)が展開するツール「AIXON(アイソン)」だった。野口氏はAIXON採用のきっかけについてこう話す。
「当時、大きな課題だったのは、お客さまである不動産会社から見た時の費用対効果です。一度離脱したユーザーをリターゲティングして送り込むわけですが、精度に限界があり、目標としていた効果が出にくくなっていました。不動産会社からは『ぜひ使いたい』という強いニーズがある一方で、提供したサービスの精度がよくないことが懸念材料でした。そんな事業課題にぴったりハマるツールがAIXONでした」と、野口氏は話す。
野口氏によると、AIXONは「AI専門業者が作ったMAツール」というイメージを持った製品だったという。野口氏が取り組みたかったのは、サイト内を回遊しているユーザーを解析してセグメントを作成し既存のDMPやMAといった他のツールと連携することだ。ユーザーの解析やセグメント抽出にAIの力を借り、人手ではできないリターゲティング施策の精度向上を図ろうとした。そうした機能を提供する製品がほかになかったことから、Appierから提案を受けてから、渡りに船で採用が決まったという。
AI専門業者が作ったMAツールの実態は?
AIXONは今年7月に日本市場に投入したAIを搭載した予測・分析ツールだ。これまで台湾企業に提供してきたが、日本ではLIFULLが初の導入となる。提供元のAppierは、台北を本拠にアジアに14の拠点を展開するAIテクノロジーベンチャーだ。米セコイア・キャピタルや米トランスリンク・キャピタルといった著名VCのほか、日本のジャフコ、ソフトバンクグループ、LINEなどからも出資を受けている。
AIXONの最大のウリは、アジアの約20億のデバイスを通じて収集されたユーザーの行動や嗜好に関するデータをAIによって分析できること。膨大なCRMデータやWebサイトデータ、アプリデータを独自のデータベースに統合し、それに対してAIテンプレートを活用しながら、予測モデルを作成して、プライベートマーケットプレイスやGoogle、Facebookなどのチャネルに対して広告を展開することができる。
LIFULLは採用にあたって、こうしたAI機能の優位性やAIをビジネスの現場に適用できる一貫性などを評価。さらに、テクノロジーの専門知識がないマーケターでも利用できること、MAツールとしての使い勝手の良さなども考慮したという。
野口氏は「データサイエンティストでなくても簡単に操作でき、セルフサービスで分析ができる点に魅力を感じました。システムへの実装についても、既存のプライベートDMPを利用できますし、導入にもそれほど時間がかかりません。スモールスタートから他の領域に展開しやすい点もよいと感じました」と話す。
7月に具体的な導入作業をスタートさせ、10月には既存のCRMデータからのデータ抽出や分析モデルの構築がほぼ終わったという。現在は、モデルの評価と検証を繰り返しつつ、教師データを溜めながら、どのような成果が出せるかを見極めているところだ。