米ローレンス・バークレー国立研究所、アルゴンヌ国立研究所(ANL)、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームは、マグネシウムイオンの高速移動を可能とする固体電解質を発見したと発表した。リチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高く安全な全固体マグネシウムイオン電池の実現に必要な固体電解質材料として期待される。研究論文は科学誌「Nature Communications」に掲載された。

  • 今回の研究で使用されたアルゴンヌ国立研究所の核磁気共鳴(NMR)装置(出所:ANL)

    今回の研究で使用されたアルゴンヌ国立研究所の核磁気共鳴(NMR)装置(出所:ANL)

マグネシウムイオン電池は理論上、リチウムイオン電池よりもエネルギー密度を高くできると考えられている。既存のリチウムイオン電池で使われているグラファイト負極の場合エネルギー密度は単位体積1Lあたり700Ah程度、金属リチウム負極でも同2062Ahであるが、金属マグネシウム負極では同3830Ah程度という高いエネルギー密度が実現できるとされる。

しかしマグネシウムイオン電池には、さまざまな未解決の課題が残っており、実用化には至っていない。電解液の腐食作用による電池部材の劣化という問題もそのひとつであり、これまで既存の電解液を代替できる有力な電解質材料は見つかっていなかった。

また、電解質を液体ではなく固体にできれば、腐食や発火の危険のない安全な全固体電池が実現できるが、これまでに知られている固体電解質の多くはマグネシウムイオンの移動度が低いという問題があった。

研究チームは今回、カルコゲナイド系材料であるスピネル型マグネシウム-スカンジウム-セレン化物(MgSc2Se4)について、固体電解質としての性能を調べた。核磁気共鳴(NMR)分光法、インピーダンス分光法などによる実験観察と、第一原理計算によるシミュレーションの組み合わせから、同材料が高いマグネシウムイオン移動度を実現できる固体電解質であることが確認できたとする。

論文によると、そのイオン移動度は、室温条件下で0.1mS/cm(ミリジーメンス毎センチメートル)程度と報告されている。全固体リチウムイオン電池向けの固体電解質ではイオン移動度が1mS/cmを超えるものもあるので、それと比べると一桁程低いが、これまで知られていた固体電解質のマグネシウムイオン移動度からは格段に高くなっており、実用的な固体電解質としての利用が期待できる値になっている。

また、理論的には、MgSc2Se4以外のスピネル型カルコゲナイド材料でも、マグネシウムイオンの移動度を高くできるものがあると考えられ、今後マグネシウムイオン電池の材料開発の幅が広がっていく可能性もある。