大阪大学は、難治性で有効な治療法がなかった軟骨損傷の治療法として滑膜由来の間葉系幹細胞(MSC)を用いたスキャフォールドフリー三次元人工組織を開発。このたび、実用化への最終段階として第III相臨床研究と企業治験が進められることを発表した。
これまで関節軟骨は、血行に乏しく傷つくと治らない組織と考えられており、有効な治療法が存在しなかった。世界中で幹細胞、組織工学的手法を用いた治療法の開発が進められているが、修復組織の質、移植先の母床との生物学的癒合を同時に向上させることが困難であるという課題があったという。
大阪大学大学院医学系研究科整形外科の中村憲正招聘教授、吉川秀樹教授、澤芳樹教授らの研究グループでは、通常の平面細胞培養と浮遊培養法を組み合わせることで、間葉系幹細胞が合成する細胞外マトリックスのみを利用して分化能に富み、しかも組織接着性の高い三次元人工組織を開発した。
これは間葉系幹細胞のアクチン細胞骨格の収縮能を利用して組織の自己収縮を誘導する技術を用いる組織化技術で、同技術により、これまで困難であった低侵襲で短時間の移植による軟骨再生治療が可能となった。また、同人工組織は動物由来材料や化学合成品を一切用いずに作製されたもので、バイオマテリアルを使用した従来の組織工学技術に比して、移植後の安全性、費用対効果の面で強い競争力を保持しているとのこと。
今回は、大動物を用いた前臨床研究、ヒトでの第I/II相臨床研究に引き続き、実用化への最終段階として第III相臨床研究そして企業治験が進められる。第III相臨床試験では、マイクロフラクチャー法とのランダム化比較試験を、膝関節軟骨損傷の70例を対象に行い、その第一症例の手術が11月29日に実施された。また、企業治験では、ツーセルが他家MSCを用いた人工組織の有用性を検証し、中外製薬は臨床開発が円滑に進むよう助言を行う。同治験は、他家細胞培養を無血清培地(人工培地)で行う試みとなっており、従来の自家移植に比べ、患者の受ける侵襲治療(手術)は1回で済み身体の負担が軽く、また製造コスト削減ができるメリットを持つ治療法の開発として期待されているという。
同治療法が実用化されれば、多くのスポーツ外傷の患者への福音となるのみならず世界で潜在人口3千万人といわれる変形性関節症の発症予防が期待される。また、日本における他家細胞を用いた再生医療の扉を開くことが期待されるという。なお今回、治療目的の他家細胞の保存を目的に、大阪大学未来医療センターに幹細胞バンクが設立されたということだ。