東京工業大学(東工大)は、空気中ですぐに潮解してしまうヨウ化カルシウムを用い、優れた耐久性と高い発光性能を持つ「ナノコンポジット蛍光体」の開発に成功したと発表した。

同成果は、小糸製作所と東京工業大学(東工大)の細野秀雄 教授の研究グループ、名古屋大学の澤博 教授の研究グループの共同研究によるもの。詳細は、米国科学誌「ACS Applied materials & Interfaces」(オンライン版)に掲載された。

ハロゲン化物、カルコゲン化物に発光元素として希土類を微量含有(ドープ)させると、その緩やかな原子結合から、内部損失の少ない蛍光体が作製できることが知られているが、これらの化合物は耐湿性が低く、実際に使用できるケースは少なかった。

研究グループは今回、最も耐湿性が低い化合物の1つであるヨウ化カルシウムに希土類のユーロピウムイオンをドープした蛍光体に対し、実用耐久の付与を目的にナノコンポジット化(ナノサイズの複合材料化)を試みた。

その結果、ユーロピウムをドープした直径約50nmのヨウ化カルシウムのナノ単結晶を、結晶性シリカ(クリストバライト)内に埋め込んだナノコンポジット蛍光体の合成に成功した。

  • 蛍光材料

    ナノコンポジット蛍光体断面SEM像(左)と電子線発光像(右)。クリストバライトに埋め込まれたナノ単結晶(左 白色部)のみが発光していることが分かる (出所:東京工業大学Webサイト)

得られたナノコンポジット蛍光体を85℃ 85% の高温高湿下に2000時間曝した後の発光強度の低下は2% であったほか、ナノコンポジット蛍光体の400nm励起での内部量子効率は98% に達し、最高レベルの効率が示された。その結果、青色発光の代表的な蛍光体である「BaMgAl10O17:Eu2+」と比較し、2.7倍の強い青色発光が得られた。ナノコンポジット蛍光体の合成は、固相反応中でヨウ化カルシウムがフラックスとしてガラス質のシリカ粒子を結晶化させたとき、結晶化したシリカ(クリストバライト)中に取り込まれたフラックスが固化・結晶化する自己組織化を活用している

研究グループは同成果に関して、「これまで、ハロゲン化物、カルコゲン化物などの優れた発光性能をもつ材料は、耐久性の懸念から、機能材料として検討されていなかった。今回の研究結果から、新たな発光材料の開発への展開が期待される」と説明している。