2015年、2016年の2年連続の総額10兆円規模にのぼる世界半導体産業のM&Aは、一段落し、今年は目立ったM&Aはなく平穏に終わるのではないかと、多くの人が思っていたが、11月上旬に半導体/エレクトロニクス業界の最高額となる1300億ドルで米Broadcomが米Qualcommに買収を提案し、話がつかなければ敵対的買収も辞さない構えを見せている。その余韻もさめやらぬうち、規模は小さいものの、米国半導体企業同士の買収発表があった。半導体産業は、スケールメリットを追求する産業である限り、今後もM&Aは続くと見たほうが良さそうである。
米国シリコンバレーの中堅半導体ファブレスMarvell Technology(登記上の本社はバミューダ諸島ハミルトン)は11月20日(現地時間)、同じシリコンバレーのデータセンタ・サーバ用ハイエンドプロセッサSoCを手がけるファブレス企業のCaviumを約60億ドルで買収することに合意し、2018年中頃までに買収を完了させる見通しであることを発表した。
両社の公式発表によると、MarvellはHDD/SDDのコントローラや、エンタープライズ向けのネットワーキング・スイッチ、Wi-FiやBluetooth SoCに強みを持つ(図1左)。一方、Caviumはエンタープライズ向けのマルチコア・データセンタ・プロセッサ、データセンター向けEthernetアダプタ、データコントローラ・スイッチ、ストレージ向けEthernet/Fibreチャンネル用IC、セキュリティICなどが主力製品である(図1右)。両社とも、ICTインフラ機器向け半導体製品に強みを持つことが共通しているが、主力製品にほとんど重複はないとしている。
実際、Marvellの社長兼CEOであるMatt Murphy氏は買収について「これは、2つの補完的な、1+1=2以上となるエキサイティングな組み合わせである」とコメントをしている。買収後の売上高内訳は、ストレージが46%、ネットワーキングおよびプロセッシングが37%、コネクティビティが17%、その他が5%となり、ネットワーキングプロセッシングの伸びが大きく、Caviumのデータセンタプロセッサの寄与が大きいことがうかがえる。
Marvellの2016年の売上高は約23億ドル。Caviumの売上高は約6.3億ドルと、Marvellの1/4の規模であるから、買収による売上高の伸びは限定的であり、半導体産業の勢力地図が塗り替わることはないだろう。ただ、Marvellでは、Caviumの買収によるシナジー効果が期待できるため、年間の売上高について、2社を足し合わせた売上高を上回る約34億ドルになるとしている。
本当にシナジー効果は発揮できるのか?
両社とも、Armベースの半導体を手掛けており、整理統合がしやすいので、NXPとFreescaleの合併時のように異なるアーキテクチャが混在し、シナジーを発揮しにくい状況とは異なるため、Marvellの狙い通りに1+1=2以上の売り上げが期待できるとの見方を示す向きもある一方で、Marvellが成長が続くサーバ用プロセッサビジネスを獲得できる意義として、最近の業績が停滞気味である同社が再び成長するきっかけになるとする見方や、品揃えが多少増えるだけで、Marvellが語るようなシナジーは生まれない、といった見方が業界関係者の中で混在している。両社の内情を知るシリコンバレーの関係者によると、「Marvellは、HDDのコントローラで伸びてきたが、最近のHDD市場は成長が鈍化しており、新たな成長分野を模索していた、一方のCaviumはArmベースのデータセンタサーバ用ハイエンド・マイクロプロセッサ市場でIntelの牙城を崩そうと取り組んできたが、開発費がかさみ、長期的な赤字状態にあった」という。
11月中旬に米国コロラド州デンバーで開催された高性能コンピューティングに関する学会・展示会「SC17」で、CaviumのArmベースのデータセンタ・サ-バ向けハイエンド・プロセッシングSoC「ThunderX2」が、Hewlett-Parckard Enterprise(HPE)、Cray、GIGABYTE、Ingrasys Technologyなどのサーバベンダに採用されることが明らかにされた。
すでにGIGABYTEとIngrasysが受注を開始しているほか、HPEやCrayは2018年第2四半期から出荷を開始するとしている。このように急成長するCaviumのプロセッシングSoCが今後、Intelの牙城を切り崩せるか注目される。もっとも、QualcommもArmベースのプロセッサ「Centriq 2400」を発表しており、今後のハイエンド・データセンタ・サーバ向けプロセッシングSoC市場は混戦が予想される。