災害科学に関する日本の学術研究は、論文数は多いものの世界に対する影響力が小さいという実態が、世界的な情報分析・学術出版社「エルゼビア」(本社・アムステルダム)がこのほどまとめた報告書「災害科学における世界的な見通し」で明らかになった。
報告書では、2012年から2016年までの5年間に公表された論文などから、災害科学に関係があるキーワードをもとに関連文献を抽出した。その結果、全体の0.22%にあたる約2万7000件が災害科学分野の論文だった。論文数が多かったのは中国と米国でほぼ同数。それに日本、英国が続いた。東南アジアをはじめとする自然災害の死者数が多い国で、災害科学の学術論文が少ない傾向にあった。
日本では全体の0.66%が災害科学分野で、世界平均に比べてその割合が高い。とくに復旧、復興に関する論文が多かった。一方で、その論文が他の論文にどれくらい引用されているかといった点などを考慮した「影響力」は、ブラジル、フランス、イタリア、英国、ドイツなどに比べて小さかった。数は多いが世界への影響力は小さいという結果だ。
自然災害が多発する地域で論文数が少ないことに関して、報告書の作成に協力した東北大学災害科学国際研究所の泉貴子(いずみ たかこ)准教授は、「災害多発地域には途上国が多く、研究資金も不十分だ。国際的な共同研究が必要だ」と指摘する。
慶應義塾大学(けいおうぎじゅくだいがく)のラジブ・ショウ教授は、「災害科学研究の関心が、命を守ることより経済的損失に向いてしまっている」という。社会のインフラが整っているがゆえに、いったん自然災害に襲われると被害額が大きくなる先進国に研究が偏っている点を指摘したものだ。また、ショウさんは、日本では防災政策に関する研究が英国などに比べると少なく、それが世界への影響力を発揮しにくい一因だと考えている。「日本には防災を複合的に教える教育組織が不十分だ。防災というと理工系の研究に優先的に研究費を配分する日本の仕組みにも、問題があるのではないか」という。