国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、窒化ニオブを用いた窒化物超伝導体による新奇な磁性ジョセフソン素子の開発に成功したと発表した。これにより、超電導デバイスの大規模化が容易になるといい、超伝導量子コンピュータの新たな基本素子として期待できる。

  • 超伝導量子コンピューティング素子の概略図

    超伝導量子コンピューティング素子の概略図 (出所:NICT Webサイト)

同成果は、NICTの山下太郎 主任研究員らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。

次世代のデバイスとして超伝導量子コンピュータや低消費電力回路が注目されている。通常、ジョセフソン素子を利用した超伝導デバイスでは、ジョセフソン素子の「巨視的位相」にねじれを発生させるために、外部から電流や磁場を加える必要があり、消費電力の増加や外来ノイズの原因となっていた。それに対し、磁性ジョセフソン素子は、巨視的位相が自ら180°ねじれた「パイ状態」を発現する。そのため、磁性ジョセフソン素子を超伝導回路に組み込むことで、巨視的位相にねじれを生じさせるのに必要な電流や磁場を大幅に削減でき、超伝導デバイスの大規模化が容易になる。

窒化ニオブや窒化チタンなどの窒化物超伝導体は、超伝導量子コンピュータの低損失な超伝導材料として注目されているため、これらを用いた磁性ジョセフソン素子の実現が期待されていた。一方で、コヒーレンス長が短い窒化ニオブで磁性ジョセフソン素子を実現するには、接合界面のより精密な制御が必要なことから、その作製は困難であった。

今回の研究では、酸化マグネシウム基板上に結晶配向成長し、表面平滑性に優れた窒化ニオブ薄膜を用いることで、接合界面の精密な制御を行い、窒化物超伝導体による「パイ状態」磁性ジョセフソン素子を実現した。

厚さの異なる磁性層を持つ複数個の素子を作製し、ジョセフソン臨界電流を測定した結果、磁性層がある膜厚範囲にある素子で、巨視的位相が180°ねじれるパイ状態を発現していることを実験的に確認したという。

通常のジョセフソン素子では、位相のねじれがない「0状態」が安定で、ジョセフソン臨界電流は温度上昇に対して単調に減少するが、磁性ジョセフソン素子では、磁性層の厚さや動作温度に対して、0状態とパイ状態が変化する。状態が変わるポイント(転移点)では、ジョセフソン臨界電流の温度依存性に、磁性ジョセフソン素子に特有のディップ構造が現れる。

今回の成果を受けて研究グループは、将来的には開発した素子を超伝導量子コンピュータや超伝導集積回路に組み込むことにより、巨視的位相制御に必要な外部電流やmmテスラレベルの磁場の大幅な削減が可能になり、消費電力や外来ノイズの低減に大きく寄与することが期待できるとしている。