東京工業大学(東工大)は11月17日、太陽電池や光触媒などの光利用技術で利用されずにエネルギー損失となっている光波長部分を、利用可能な波長に変換するフォトン・アップコンバージョン(UC)技術の応用実現性を高める材料プラットフォームを開発したと発表した。
同成果は、東京工業大学工学院機械系の村上陽一 准教授らによるもの。詳細は英国の学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」に掲載された。
この研究では、さまざまなエネルギー変換において未利用で損失となっている光を利用可能な光に変換する波長変換技術である「フォトン・アップコンバージョン(UC)」においての実現性を高める目的で行われた。従来のUCの実施形態ではトルエンやベンゼンなど、高い可燃性や揮発性を有し、不安定で環境親和性の低い有機溶媒を媒体に用いるものが大半で、あるいは高コストで生分解性に乏しいものに限られていたため、UC技術の応用実現に向けた障害となっていた。
今回、実用上多くの長所をもつ「深共晶溶媒」を用いることに着目。探索と試行を経て、試料開発に成功し、併せて試料の諸物性の解明を行った。
その結果、ある一群の「疎水性深共晶溶媒」がUCの目的に適することを見出し、これが成果につながったのだとする。また緑色光から青色光へのUCを実現し、試料の熱安定性(難着火性)も確認したという。
さらに、試料のUC効率が、用いた深共晶溶媒を構成する2つの成分比によることを見出し、さまざまな光計測実験結果に基づき、その理由を解明した。最大の変換効率を示した試料はUC量子収率(最大が0.5の定義UCでは2個の低エネルギー光子から最大1個の高エネルギー光子を生成するため)が0.21に達した。これは、最大効率を100%とした量子効率では42%にあたる、比較的高い値である。
今回の成果を受けて研究グループは、今回の研究で得られたUC量子収率0.21(UC量子効率42%)から、理論上限である0.5(100%)までの達成は容易ではないが、ある程度の効率向上は理論上は実現が見込まれるとしている。また、今回の成果は緑色光(530nm付近)から青色光(440nm付近)へのUCについても、異なる波長域に対応する有機分子についても特性の検証が必要であるとコメントしている。