理化学研究所(理研)は、「ノックインマウス」を、2~3か月という短期間で、かつ同時進行(並列)で多種類作製する方法を確立したと発表した。
同成果は、理研 生命システム研究センター合成生物学研究グループの上田泰己グループディレクター(東京大学大学院医学系研究科教授)、鵜飼英樹 上級研究員、ライフサイエンス技術基盤研究センター 生体モデル開発ユニットの清成寛ユニットリーダーらによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Nature Protocols」(オンライン版)に掲載された。
ノックインマウスとは、細胞がもともと持っていない外来遺伝子が体の全細胞の染色体DNAに挿入されたマウスのこと。ノックインマウスを作製しその表現型を解析する技術は、病気などの生命現象を研究する上で欠かせない。
個体レベルでの生命現象には多くの遺伝子が関与しているため、多種類のノックインマウスを作製する必要がある。しかし一種類を作製するのに、ノックインES細胞の作製、キメラマウスの作製、キメラマウスの5~6回以上に及ぶ交配という煩雑な操作が必要であり、作製には少なくとも1~2年ほどかかり、また多種類を並列に作製することはできなかった。
今回研究チームは、まずノックインES細胞を作製する際のゲノム編集技術を簡便化・高効率化、操作を小スケール化することで、多種類のノックインES細胞を並列に約1か月で作製する技術を確立。この技術と、体の全細胞がES細胞に由来するESマウスをキメラマウスの交配を介さずに直接作製する技術を組み合わせることで、ノックインESマウスを「ES細胞→ノックインES細胞→ノックインESマウス」の2つのステップで、並列・短期間(2~3か月)で作製する技術体系の確立に成功した。
研究チームはこの「次世代型マウス遺伝学」を誰もが実践できるように、操作上の注意点などを詳細に記したプロトコル(手順書)にまとめ、Nature Protocolsに報告・公開した。
研究グループは同成果に関して、マウスを用いた基礎生物学的研究だけでなく、ヒトiPS細胞などを用いた疾患研究、ヒト疾患モデル臓器や疾患モデルマウスの作製にも応用できると説明している。