東京工業大学(東工大)などは11月10日、原子力発電所から発生する放射性廃棄物に含まれる長寿命の核分裂生成物(LLFP)を短寿命の核種に変換して無害化するシステムを提案したと発表した。
同成果は、東京工業大学科学技術創成研究院先導原子力研究所 千葉敏教授、奥村森研究員、東北大学 若林利男名誉教授、東京都市大学 高木直行教授、日本原子力研究開発機構 舘義昭氏らの研究グループによるもので、10月24日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
代表的なLLFPとして、セレン(Se-79、半減期30万年)、ジルコニウム(Zr-93、同153万年)、テクネシウム(Tc-99、同21万年)、パラジウム(Pd-107、同650万年)、スズ(Sn-126、同23万年)、ヨウ素(I-129、同1570万年)、セシウム(Cs-135、同230万年)があげられる。
同研究グループはこれまでに、日本で蓄積されてきた高速炉技術を生かしつつ放射性廃棄物処分リスクを低減する方法として、高速炉を利用した核変換システムの検討を行ってきた。LLFP核変換に関する先行研究は、中性子との反応性の高いTc-99およびI-129にターゲットを絞って行われてきたが、原子炉内での生成量がこれらの核種よりも多くかつ核変換効率の低いZr-93やCs-135、または全6核種同時に核変換を実現するには、同位体分離といった技術的にも実現が難しいと考えられている付加的な処理プロセスが必要とされてきた。
今回の研究では、高速炉の使用済核燃料に含まれるLLFPを含む新規の減速材入りターゲット要素を提案した。同ターゲットを炉心周辺部に配置することで、高速炉で利用可能な核分裂で発生した余剰の中性子を効率的に吸収させることができる。これを用いたシステムでは、生成量が少なく中性子との反応性が極端に低いSn-126を除く6種類のLLFPに対して、同位体分離などの付加的な処理を行わず、実効半減期を物理的な半減期に比べて飛躍的に低減し、また高速炉の炉心で生成される量よりも多くのLLFPを無害な核種に変換することができる。
今回提案された核変換システムは、開発の進んだ小型高速炉技術を使用するため早期に展開でき、かつ軽水炉からの蓄積プルトニウムを燃料として消費し、将来的には核軍縮に伴って発生する解体核兵器中のプルトニウムの有効利用も可能になると考えられる。国内の軽水炉により生成されるLLFPについても10基程度の小型高速炉で処理可能な見通しであるという。