生理学研究所は、角谷基文氏と北田亮助教、定藤規弘教授の研究グループが、被験者自らが大喜利をおもしろく読みあげ、それを聞いた観客の反応を受け取った際の被験者の脳活動を、機能的磁気共鳴現象画像法(fMRI)を用いて測定した結果、大脳皮質の一部である内側前頭前野が、被験者自らが大喜利を読み上げた際に活動することがわかったと発表した。さらに、線条体が聴覚野から受け取る観客の反応に関する信号が、内側前頭前野の活動によって変化することもわかった。この成果は10月1日、「Neuroscience Research」誌に掲載された。
社会的コミュニケーションは、ひとりが情報を伝え、もう一方の相手が情報に反応することで成立し、反応がよければ話者はより話をしたいと感じる。線条体と呼ばれる脳部位は、誰かから褒められたり報酬を得たりすることで活動すると考えられている。また、近年では線条体が社会的やりとりの際にも関わり、相手の反応が自分の行動によるものであるかどうかによって活動を変えることが明らかになってきた。しかし、線条体がどのようなメカニズムで変化するのかは不明であった。
今回、研究グループは、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いて実験を行った。脳活動を計測している被験者自身、あるいは別の他者のいずれかによって、画面に呈示された大喜利の回答をおもしろく読みあげ、観客が笑って反応した。その結果、被験者は他者が読み上げた際の大喜利の回答に比べ、自分が読み上げた際の大喜利の回答に対して観客がウケた際、よりうれしいと報告する傾向があった。観客の反応を聞いている際の脳活動を調べると、被験者自らが大喜利を読み上げた場合の方が、内側前頭前野と呼ばれる脳部位はより活発に活動した。聴覚野と呼ばれる脳部位は、観客の笑い声に対して活動し、自分が大喜利を読み上げて観客が大きく笑った条件では線条体が活動した。
さらに、これらの脳部位間の関係を検討した結果、内側前頭前野の活動が、聴覚野と線条体との間にある機能的結合用語を変化させていることもわかった。これは、線条体が聴覚野から受け取る信号を、内側前頭前野の活動が変化させることを示唆している。また、これらの領域間の結合の強さと社会的やりとりによるうれしさの変化量に相関があることが示された。
定藤教授は「今回の研究で、自分の行動が相手に評価されるときの脳の働きの一端が明らかになりました。社会的やりとりに伴う結果の価値処理には線条体だけでなく複数の脳領域が関与しており、それらの領域間の情報のやりとりがコミュニケーションから生じる楽しさに重要なのかもしれません。今後社会的やりとりのメカニズムをさらに明らかにしていくことによって、コミュニケーションを苦手とするさまざまな疾患に対する理解が深まっていくことなども期待されます。」と述べている。