東北大学は、市販魔法瓶水筒にシリコーン組成モノリス型多孔体「マシュマロゲル」を詰めることで作製可能な、簡易な凍結胚運搬容器(小型ドライシッパー)を開発したと発表した。
同研究は、東北大学学際科学フロンティア研究所の早瀬元 助教と、名古屋大学の大矢康貴 技術職員らの共同研究グループよるもので、同研究成果は、11月1日に「Applied Materials Today」で公開された。
医学・生物学の研究分野では、さまざまな種類のマウスの胚・精子を凍結保存して輸送するケースが多くなっている。輸送には-150℃以下を長時間保つ必要があるため、冷媒に液体窒素が用いられており、容器には内部に液体窒素吸収材が埋め込まれた特殊容器(ドライシッパー)が使用されている。しかし、この容器は高価で重量があるという問題点があり、数十分から数時間内の少量輸送が多い日本の大学研究環境ではオーバースペックで、軽量・小型・低コストな容器が望まれていた。
同研究では、2011年に早瀬助教らが発表した、簡易なプロセスにより幅広い形状で作製可能なシリコーン組成のモノリス型多孔体「マシュマロゲル」と市販の水筒を用いて、凍結細胞輸送容器としての応用検討を目的とした。マシュマロゲルの微細構造は数マイクロメートル径の骨格と数十マイクロメートルの細孔径から成っており、骨格間に液体窒素を吸収することができる。標準的に用いたマシュマロゲルのサンプルでは気孔率が90%以上であることから、体積の90%以上の液体窒素を内部に保持することが可能であると考えられる。マシュマロゲルに液体窒素を染み込ませたサンプルでは、長時間-150℃以下を保ち、布を用いた場合の倍以上、およそ10時間の保温性が確認できた。続いてマシュマロゲルおよびポリエステルを詰めた同様の容器を用意し、マウス凍結胚の保温を行い解凍後の生存率を調べたところ、ポリエステル (PE)では4時間程度で全滅したのに対し、マシュマロゲルは9時間以上効果を発揮することがわかった。
これらの結果より、この容器は、大学内や近隣施設への凍結細胞の運搬に十分なスペックであり、実用的であると考えられるという。加えて、他の冷却用途、例えば高温超伝導電磁石の冷却などへの利用も期待ができ、室温においても柔軟な断熱材としての応用も考えられるという。マシュマロゲルは、さまざまな分野におけるオープンな材料として活躍が期待できるため、今後も応用アイデアを発表していくことを計画しているということだ。