PTCが長年IoTプラットフォームとして提供してきた「ThingWorx」。しかし、同社のジェームス(ジム)・E・ヘプルマン社長兼CEO(最高経営責任者)は、「ThingWorxはもはや単なるIoTプラットフォームではない」と語る。
上記の発言は、同氏が2017年11月9日の来日の際に、報道陣向けに語ったものだ。ThingWorxは、確かにIoTプラットフォームとして活用されてきた。しかし、同社が実際に活用領域を調査した結果、当初想定していた設備のメンテナンス指示といった「製造運用」の領域や、業務に対する教育といった「HR(Human Resources)」や「サービス」の分野のみならず、製品開発、ロジスティクス、マーケティング/セールスといったものづくりの事業全般に活用されていることが浮き彫りになったという。
PTCがThingWorxユーザー107社を対象に行った活用領域に対するアンケート。満遍なく、さまざまな事業領域で活用されていることが浮き彫りになった |
ARでは見える化、作業指示、双方向といったことが可能だが、ここにVRが加わることで、「シミュレーション」をさらにAR上で行うことが可能になる |
こうした実態を受けて、ThingWorxというプラットフォームが、もはやIoTを活用する、というだけの存在ではないものであるという認識となり、改めてIoTプラットフォームという位置づけを内包した「インダストリアル・イノベーション・プラットフォーム(Industrial Innovation Platform)」というより広義な存在へと昇格を決定したようだ。その意義を「ThingWorxはデジタルからフィジカル(現実世界)まですべてを一貫して接続するプラットフォームとなった」とヘプルマン氏は強調する。
では、新たな意味づけをされたThingWorxの核となるものは何か。答えは「AR(拡張現実)」である。「ARは人間がなにかをするときの負担を減らしてくれる技術であり、認識力を拡張するための道具である」というのがPTCのARに対する考え方で、最終的にはスマートフォンやタブレット経由ではなく、スマートグラスで活用することで、普通にメガネをかけて作業をするようになっていくことが想定されている。「デジタルの情報を現実の世界に持ち込んで、融合させて活用することが可能になる。これはとてもエキサイティングな技術である」と同社も今後の活用が進むことに期待を寄せる。
すでにARを使って、単なる設備のメンテナンス指示といったこれまでの使い方から、体温を感知し、患者の血管位置を推測して表示したり、インタラクティブ性を持たせることで、工業用ロボットと接続し、ロボットの作業スピードの調整や、位置の調整といったことを、キーボードもマウスもなく実現することができる段階に至っており、ヘプルマンCEOと経済学者であるマイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)氏の共著論文「A Manager's Guide to Augmented Reality」が掲載されている英語版のHarvard Business Reviewでも、誌面上にアプリをかざすことでラインの動作シミュレーションを手軽に確認することが可能となっている。
PTCのジェームス・E・ヘプルマンCEO。手に持っているのがHarvard Business Review |
Harvard Business Reviewに掲載されているページの1つ |
Harvard Business Review向けのARアプリが提供されており、これを使うことで、ページ上のコンテンツをARで見ることができるようになる |
実際に上記のページをARアプリで映し出した様子。この例では、作業指示が出てきて、手順に従って修理を行ったり、ロボットアームと接続し、ロボットアームの動きなどを設定するといったことも行われた。ちなみにFAUNCTIONの下の青いバー部分は、ロボットアームの動作スピードの設定メータで、右に丸を動かせば動かすほど、早くアームが動くこととなる |
なお、ヘプルマンCEOは、「ThingWorxは、さまざまな職域ごとに活用方法を変えて利用できる。いろいろなシステムとデータを組み合わせて、それをアプリケーションを介して活用することを可能とするもの。IoTプラットフォームとしても使えるし、情報を引っ張ってくるパイプラインとしても使える。すでに多くのユースケースが存在しており、PTCとしても将来に向けた大きな可能性を感じている」と述べており、今後も引き続き、ThingWorxを通じて企業に対するAR活用の重要性と、そこから生み出される付加価値について積極的に説いていきたいとしていた。