東北大学は、糖尿病治療のための簡便・安全・効果的な膵島移植法を新規に開発したと発表した。

従来の方法(門脈内移植)と新規の膵島移植法(皮下血管床移植)の比較(出所:東北大学プレスリリース)

同研究は、東北大学大学院医学系研究科移植再生医学分野の後藤昌史教授、同大学院医学系研究科消化器外科の海野倫明教授、亀井尚教授、植松智海医師らの研究グループによるもので、同研究成果は、10月10日付けで米国の国際学術誌「Transplantation」に掲載された。

現在、糖尿病の先端治療としては、血糖調節ホルモンであるインスリンを分泌する膵島を患者に移植する治療法がある。膵島移植は、脳死ドナーから提供された膵臓から膵島細胞のみを抽出し、糖尿病患者へ移植する治療法。現時点で確立された、消化管から肝臓への血管(門脈)内へ膵島を移植する方法は、十分な移植効果を得るためには複数回の移植が必要となるが、門脈の血圧が上昇により移植の回数が制限されたり、出血や塞栓といった合併症が避けられず、様々な問題点が指摘されている。

一方で、膵島を皮下へ移植する手法は、操作が容易で低侵襲かつ安全な治療法として研究が行われてきた。近い将来、ES細胞やiPS細胞由来膵島の移植が可能となった際、腫瘍化した場合にも移植膵島を摘出することが容易で、安全性確保という観点からも多くの利点があるが、移植膵島へは新生血管ができにくいため生着が極めて悪く、臨床応用に至っていなかった。これを克服する手法としては、移植予定箇所の皮下へ予め血管新生を誘導しておく方法が有効であると報告されており、この手法では、血管新生を誘導する効果を持つ塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を移植予定箇所の皮下へ投与することで新生血管床を構築し、そこへ膵島を移植する。しかし、bFGF等の細胞増殖因子は、高濃度で投与すると出血、炎症、癌化のリスクがあり、実際の医療応用が困難となっていた。

I型コラーゲン様リコンビナントペプチド(RCP)を用いた皮下膵島移植法(出所:東北大学プレスリリース)

同研究グループは、効率良く新生血管を誘導する新規素材(I型コラーゲン様リコンビナントペプチド(RCP))を用いた新規の皮下膵島移植法を開発した。この手法では、まず移植予定箇所の皮下へRCPを投与し、予め十分な新生血管床を構築した後、膵島を移植することにより、門脈内移植と同等の移植結果を得ることに成功した。同手法は、従来のbFGFを用いた移植手法よりも移植効率が高く、また出血や炎症などの副作用も全く見受けられなかったという。さらに、このRCPは人工的に産生した製品であるため製品の差が極めて小さく、安全性や安定性に優れた素材であり、医療応用に適していると考えられる。

この皮下膵島移植法は、現在の標準である門脈内移植を超える簡便・安全・効果的な糖尿病治療となると期待されるという。また、同手法は糖尿病治療に留まらず、肝細胞移植など、皮下における新生血管不足が課題となっている種々の細胞移植療法への応用も期待されるということだ。