米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)などの研究チームは、量子ドット太陽電池の世界記録更新となる変換効率13.4%を達成したと発表した。研究論文は、Science系列のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。
粒子径3~20nm程度という微小なコロイド状量子ドットを光電変換に利用する量子ドット太陽電池は、近年開発が急速に進み、変換効率の向上が続いている。2010年に報告された最初期のデバイスでは、硫化鉛系量子ドットが用いられ、変換効率は2.9%であった。その後変換効率は2桁台に伸び、2016年には同じく硫化鉛系量子ドット太陽電池で、トロント大学の研究チームが12%を記録していた。
変換効率が向上してきた理由としては、個々の量子ドット間のつながり方に関する理解が深まってきたことが挙げられる。また、デバイス構造全体の改良や、量子ドット中の欠陥の低減なども性能向上に寄与してきた。
今回のデバイスでは、量子ドット材料は硫化鉛ではなくヨウ化セシウム鉛(CsPbI3)を用い、これをハライドペロブスカイトと組み合わせて使っている。CsPbI3量子ドットは1.2V程度と高い開放電圧が実現できるため、量子ドットのもつ調整可能なバンドギャップ(1.75~2.13eV)と合わせて、多接合型太陽電池セルの上部層として理想的な候補材料であるとする。
多接合型太陽電池の上部層には、高い変換効率と同時に、広い波長での光の透過性が要求される。上層で光電変換されない波長の光をデバイス下層まで届けて、異なる種類の太陽電池材料によって電気に変える必要があるためである。
多接合型デバイスは、製造コストよりも高い変換効率への要求のほうがより重要視される宇宙用太陽電池でよく使われている。今回の研究では、低コストなペロブスカイト薄膜材料を組み合わせることで、宇宙用太陽電池で使用されるのと似た高効率の多接合構造を実現しようとするものであるといえる。既存のシリコン太陽電池よりも低コストにできると考えられており、地上用、宇宙用のどちらにも応用できると期待されている。