2017年9月にCanyon Bridgeによる買収が破談となり、この状況を翌10月にCEATEC会場で日本法人の吉田社長が説明するといった具合に動向が注目されているLattice Semiconductorであるが、こうした動きもあったためか11月6日、同社COOであるGren Hawk氏(Photo01)が来日、改めて同社の状況と今後の展開を説明した。
同社は現在、ビジネスを3つのマーケットに分けて進めている(Photo02)。最初がコントロール(Control)で、こちらは平均して年あたり2億ドル程度の規模で、今後も安定した収益を期待できるとする。2つ目が2010年頃から大きく伸び始めたエッジコネクティビティ(Edge Connectivity)で、ネットワーク向けに加え、2015年に買収したSilicon Imageのソリューションも貢献している。また最近注力しているmmWaves(ミリ波接続技術)関連製品もここに入る。2016年でいえば、この2つがほぼ同程度といった売り上げになっている。これに続いて同社が3つ目の柱として期待しているのがエッジコンピューティング(Edge Computing)である。このエッジの話は後で説明するとして、今後の展望についてをさきに説明しておこう。
Photo02:5月に来日したDarin G. Billerbeck氏の資料とはまた違った切り口なのが面白い |
Photo03は同社のデザインウィンの年度別売り上げであり、こうした毎年の積み重ねが、Photo02におけるコントロールやエッジコネクティビティの事業拡大が今後も続くという見通しにつながっているとする。Glen氏によれば、今後のエッジコンピューティングの成長に伴い、「5年後に3つの事業の売り上げ比率を1:1:1に持っていきたい」(Photo04)としている。コントロールやエッジコンピューティングも多少売り上げが増えていくものの、それ以上にエッジコンピューティングの売り上げ拡大が極端に大きい見通しだ。
Photo04:このグラフは縦軸がSAM(Served Addressed Market)。つまり、あくまでもLatticeが売り上げとして狙えるマーケットの規模全体であって、これを全部取れるかどうかはまた別問題である |
ではそのエッジコンピューティングとして同社が考えているのはどのような分野か? というのがPhoto05である。いわゆるニューラルネットワーク分野において同社はエッジに組み込まれる推論部分にフォーカスしているが、ここで高い性能を実現しつつ、省電力・低価格なソリューションを提供できるのが強みだとしている。
Photo06が他のソリューションとの差別化で、同社は1W以下、1000TOps以下の領域にフォーカスする、としている。実際同社はECP5を使ったCNN、およびiCE40 UltraPlusを使ったBNN(Binary Neural Network)の実装例を紹介して、こうした用途が今後大きく普及してゆくとした(Photo07)。
ちなみにこのBNN、例えば自動販売機で人が前に来たときだけ表示をONにする、なんていう用途にちょうど良い機能だとしている。超音波などのセンサであれば人でもなんでも通り過ぎるだけでONになってしまうが、きちんと人が顔を自動販売機に向けた時だけONにする、という判断には顔検出はうまいアイディアとなる。ただこれを従来の顔認識ソリューションで実現しようとすると、常時、かなりの電力が必要になる。iCE40 UltraPlusだと認識部は5mW以下で動作するため、常時動かしていても電力の増加はそれほど問題にならない、というわけだ。
Hawk氏によれば、iCE40のシリーズはBNNを実装する場合、他のFPGAに比べるともう1つメリットがあるという。それはiCE40シリーズが4入力LUTを採用していることで、BNNの実装には丁度良いとする。同氏によれば(ECP5やXilinx/AlteraのFPGAの)6入力LUTは、BNNの実装にはややオーバースペックであり、その分無駄が多いという話であった。
ちなみにCNN/BNNだけでなく、サラウンドビューやAR/VRの位置追跡、ナンバープレート認識(Photo08)などの、他の事例も次第に増えていると言う話で、こうしたものを積み上げて2022年頃までにはエッジコンピューティングを第3の事業の柱に据えたいという話であった。
さて、主要な話は以上であるが、最後にCanyon Bridgeによる買収の破談について同氏が説明を行ってくれたので、その話をお伝えしておく。「この1年、我々はパブリックカンパニーとして成長を遂げるべく努力してきており、1年前と違って今では買収なしでも成長してゆけると信じている」としている。もっとも同社のQuarterly Earningsからちょっと数字を拾ったのが表1であるが、そもそもCanyon Bridgeの買収の切っ掛けとなった、同社の収益性の改善の兆しが見えないのは現状もあまり変っていない。今回説明のあったエッジコンピューティングがどこまでこの状況の改善につながるかが今後の焦点になりそうである。Hawk氏によれば、今のところエッジコンピューティングに向けたIPあるいはソフトウェアを既存のiCE40をはじめとするシリーズに投入する予定はあるものの、より積極的に、例えば内部のDSPユニットの数や搭載メモリ量を増やすといった方向での製品展開は、FD-SOIを使う次世代製品まで待つ必要があるそうである。このあたりも、予算的に厳しい同社としてはやむをえないのかもしれない。