岡山大学は10月27日、肺がんや食道がんの原因遺伝子であるSOX2遺伝子に結合し、その発現を抑制するようにデザインされた人工転写因子を作製したと発表した。
同成果は、岡山大学大学院自然科学研究科(工学系)生体機能分子設計学研究室 世良貴史教授、森友明特任助教、川崎医科大学 猶本良夫教授、深澤拓也准教授らの研究グループによるもので、10月5日付の国際科学誌「Oncotarget」オンライン版に掲載された。
転写因子は、標的遺伝子の発現に大事なプロモーターと呼ばれるDNA領域に結合する結合部位と、その標的遺伝子の発現量を調節する転写調節ドメインという2つのドメインからなる。転写因子のDNA結合部位は、数塩基対の短い配列しか読めず、その結合場所はヒトゲノム内にたくさん存在するため、ほかの転写因子と協同して複数の遺伝子発現を制御している。
16塩基対以上の長いDNA配列に結合できるような人工のDNA結合タンパク質を自由にデザインできるようになれば、そのタンパク質に天然の転写調節ドメインを融合させることにより、ヒトの体内で、狙った遺伝子のみの発現量を自由に制御できるようになると考えられる。
今回、同研究グループは、肺がんや食道がんの原因遺伝子であるSOX2遺伝子に結合し、その発現を抑制するようにデザインされた人工転写因子の作成に成功した。同人工転写因子の遺伝子を導入することにより、SOX2遺伝子の発現量が効果的に抑制されることがさまざまな肺がんや食道がん細胞において確認されており、肺がんや食道がん細胞の増殖も効果的に抑制できたという。
実際に、ヒトのがん化のモデル動物であるヌードマウスを用いて実験を行ったところ、何も処理をしていないがん細胞を移植した場合には大きな腫瘍が形成されたのに対し、移植前に人工転写因子遺伝子を導入し、一晩培養したがん細胞を移植すると、腫瘍はまったく形成されなかった。これは、導入された人工転写因子がSOX2遺伝子の発現を効果的に抑えることにより、ヌードマウス体内での腫瘍の形成が完全に阻害されたものであると考えられる。
同研究グループは今後、形成された腫瘍の増殖を抑制、消失させることができるように技術改良を進めていくとしている。