東北大学は、アスパラガスの全ゲノム構造を解明し、アスパラガスの性決定遺伝子を明らかにしたと発表した。
アスパラガスにおける性決定の分子機構。雄株では2つの性決定遺伝子が働くことでおしべが大きくなりめしべは発達が抑制される。雌株では2つの性決定遺伝子がないため、めしべの発達が抑制されずに大きくなる一方、おしべ形成が途中で止まる。(出所:東北大学プレスリリース) |
同研究は、東北大学大学院生命科学研究科の菅野明准教授が参加した、米国・ジョージア大学のA.ハーケス博士、J.レーベンスマック教授、オランダ・リムグループのR.ファンデアフルスト博士、P.ラブリーセン博士、中国・南昌野菜花き研究所のC.ガンギュ博士をはじめとする23の大学・研究機関で構成される国際共同研究によるもの。同研究成果は、11月2日付で国際科学雑誌「Nature Communications」電子版に掲載された。
アスパラガスは個体によって雌雄が分かれている雌雄異株植物で、1対の性染色体によって性が決まっており(雄:XY型、雌:XX型)、アスパラガスの雌雄性はY染色体上の1遺伝子座によって決まっていることが分かっている。同研究では、アスパラガスの全ゲノム構造を解明し、Y染色体特異的な領域を特定した。
その領域にある複数の遺伝子のうちのひとつTDF1遺伝子は、おしべの形成に必須であることが明らかになっている。また、この遺伝子はアスパラガスの様々な品種や雌雄異株の近縁種で雄特異的に見られたことが報告されていたことから、おしべ発達促進遺伝子であることが示唆された。一方、アスパラガス雄株にガンマ線を照射し、めしべの発達が抑制されずに両性株になる変異体を選抜し、その個体の性決定遺伝子座近傍のゲノム配列を解析したところ、Y染色体特異的な領域にあるSOFF遺伝子に変異があることが分かった。さらに雄株から雌株に変異した個体ではSOFF遺伝子とTDF1遺伝子の両方の遺伝子が欠失していた。これらの結果より、おしべ形成の促進に関わる遺伝子(TDF1)とめしべ形成の抑制に関わる遺伝子(SOFF)がアスパラガスの性決定遺伝子であることが解明されたということだ。
性染色体が常染色体からどのようにして進化したのかについては、これまでさまざまな仮説が立てられており、アスパラガスのようにY染色体があると雄になる性決定機構の場合、雌機能を優性に抑制する遺伝子が存在することと雄機能に必須な遺伝子がX染色体上で欠失するというtwo-gene modelが提唱されていた。同研究によりアスパラガスでおしべとめしべの形成に関わる2つの遺伝子が性決定遺伝子だったことは、これを支持する結果となり、植物の性染色体が常染色体から進化する初期過程でどのような変異が起きたのかを明らかにした重要な研究成果となった。また、アスパラガスは重要な農作物のひとつであることから、アスパラガス品種の育成に大きく貢献することも期待されるということだ。