ガートナー ジャパンは10月31日から11月2日の3日間、ITビジネスにおけるセッションや講演などが行われる「Gartner Symposium/ITxpo 2017」を開催した。そのなかで、「ブロックチェーン最新動向:ブロックチェーンがもたらす価値と課題」というテーマのメディア向けのセッションが行われたので、本稿ではその内容を紹介する。

まだまだ黎明期にあるブロックチェーン

新聞やテレビ、ウェブのニュースなど、さまざまな媒体で目にする機会が増えたブロックチェーン。そのポテンシャルの高さに期待が寄せられ、さまざまな企業において実証実験が行われるようになった。

注目を集めるブロックチェーンだが、ガートナー ジャパン バイス プレジデント 兼 ガートナー フェローのDavid Furlonger(デイヴィッド・ファーロンガー)氏は、次のように分析する。

「新しいテクノロジーが登場した際に、時間の経過とともにどう進化・発展していくかといった成熟度と採用率をグラフィカルに表したハイプ・サイクルにおいて、ブロックチェーンはまだまだ黎明期にあります。ようやく医療やサプライチェーン、保険といった一部の業界で、価値の仕組みがどう変わるのかが理解され始めたに過ぎません」

David Furlonger氏

ブロックチェーン関連の技術についてまとめたハイプ・サイクルでは、各業界におけるブロックチェーンのほとんどが黎明期に位置する。ブロックチェーン技術自体もまだ過度な期待のピーク期にあり、安定期までは遠い場所にあるといえよう。

ブロックチェーン・ビジネスのハイプサイクル

安定期までの道のりはまだ遠いが、「日本政府はビットコインに対して受け入れる姿勢を見せています。仮想通貨が法的に認められている事例は、世界的に見ると実はまだそこまで多くはありません。規制の強い中国に流れていた仮想通貨が日本に流れ始めていることもあり、活発化してきていると感じています」と、David氏は日本における仮想通貨を取り巻く環境は前向きに進んでいることを述べた。

しかし、実際に仮想通貨をはじめとする多様な決済方法が生まれているとはいえ、日本はまだまだ現金社会。企業も長年同じ決済システムを使い続けており、ブロックチェーン技術を駆使した新しい仕組みを導入する体制が整っているとはいえないだろう。

「2020年ごろまでは、クオリティや堅牢性を高める時期です。それらがしっかりと育まれていった後、おそらく2030年ごろに現在期待されているような価値が飛躍的に増大し、ポテンシャルが花開くでしょう」とDavid氏。

ブロックチェーンが普及するにはまだ時間がかかりそうだ。

ブロックチェーン市場の予測

ブロックチェーンは社会のエコシステムを刷新させる

では、ブロックチェーンのポテンシャルを発揮させるためには、どのようなことが必要なのだろうか。金融業界をはじめ、医療やエネルギーの分野においてさまざまな実証実験が行われているが、本導入に至るのはわずかに3%程度だという。

「現在存在している顧客とサプライヤーの間にあるビジネスプロセスが大きく変革することで、ブロックチェーンが真の価値、つまり収益を生み出せるようになります。しかし、現代社会が集約型であるのに対して、ブロックチェーンは非集権型。企業が確立しているバリューチェーンと、ブロックチェーンのプロポジションが相反するため、既存のビジネスモデルを大きく否定することになります」とDavid氏。

特に現在は大半がコスト削減か既存ビジネスモデル増強の目的でブロックチェーンを活用しようという試みが多いのだという。そのため、テクノロジーの性質と利用目的に大きなギャップが生まれている。

ブロックチェーンがもたらす価値

「既存ビジネスモデルにブロックチェーンを当てはめようとする企業は少なくありませんが、その場合、ブロックチェーンを使わずに既存テクノロジーで代替できるケースもあります。ブロックチェーンは社会のエコシステムを新しく作り替える可能性のある技術。そのポテンシャルが最大限に発揮される活用方法を模索していかなければなりません。将来的には、さまざまなモノにインテリジェンスが組み込まれるようになり、プログラム可能な経済が立ち上がっていくでしょう」

ブロックチェーンを導入するには、テクノロジーの性質を見極めて適切な活用方法を見出す必要があると、David氏は語る。そのポテンシャルが最大限に発揮されるころには、現在ではあたりまえのビジネスモデルがあたりまえでなくなり、非集権型の社会が誕生しているかもしれない。その鍵となるブロックチェーンの動向には、今後も目が離せない。