京都大学は、2人で連続的に協力しなければ解決できない課題を考案し、チンパンジー2個体が解決できるか観察することで、チンパンジーが役割交代をしながら連続的な協力行動をとることを、実証したと発表した。
同研究は、京都大学高等研究院副院長の松沢哲郎特別教授、米国・インディアナポリス動物園のChristopher Flynn Martin研究員、オックスフォード大学のDora Biro准教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、11月1日に英国の科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
人間以外の霊長類を対象としたこれまでの研究では、2個体が協力して課題を解決できることがさまざまな場面で実証されてきたが、ほとんどの例は1回きりの動作となっていた(2個体が同時にひもをひっぱって遠くの台を引き寄せて食物を手に入れるなど)。それに対し、1回だけでなく何回も連続して、互いに役割交代しながら、息をあわせて解決する能力についてはこれまでほとんど研究がなかったという。
同研究では今回はチンパンジーの2個体を1組として、3組で検証を行った。いずれも母とその子どもというペアで、すでに数字を小さい方から順に選ぶことを習得しているチンパンジーが参加。検証では、ひとつのコンピューターの画面全体に、一連の数字(例えば1~8)をランダムに散りばめて表示し、この数字を小さい数字から順番に最大の数字までタッチしていくという課題が与えられた。ただし、画面前に座る2個体のチンパンジーの間には透明な障壁があり、右のチンパンジーは画面右半分に表示される数字のみ、左のチンパンジーは画面左半分に表示される数字のみに触れることができるようになっている。
その結果、例えば画面左半分に「1、5、7、8」、右半分に「2、3、4、6」の数字が表示されている場合、まず左のチンパンジーが「1」をタッチすると、続けて右のチンパンジーが「2、3、4」をタッチし、するとすぐ左のチンパンジーが「5」をタッチするというように、交互に役割交代をしながら、協力して一連の数字を順番に選択していくことができたという。興味深いことに、母を真似するように子どもが対応する流れが顕著で、社会性の「母から子へ」という学習の形が見られたということだ。
コミュニケーションや言語といった、広く言えば社会的なインタラクションの背後には、必ず役割交代や話者交代がある。同研究は、ヒト以外の動物の協力行動・協応行動や、役割交代の進化を考える上で、母と子を題材にした貴重な知見と言えるということだ。