生理学研究所(生理研)は10月31日、アラームシグナルATPを細胞外に放出するアニオンチャネルの分子を同定したと発表した。
同成果は、生理学研究所 岡田俊昭特任准教授、サビロブ・ラブシャン客員教授、岡田泰伸名誉教授、滋賀医科大学 松浦博教授らの研究グループによるもので、10月18日付の国際科学誌「EMBO Journal」オンライン版に掲載された。
細胞内のさまざまな反応のエネルギー源となるATPは、いったん細胞外に放出されると、当の細胞や他の細胞にアラームシグナルを伝えるシグナル伝達分子として働くことが知られている。陰電荷をもつATPが細胞外へ放出されるにはいくつかの経路があるが、最も能率的な経路として、アニオンチャネルの開口部(ポア)を通る経路が考えられている。
同研究グループはこれまでに、マキシアニオン(Maxi-Cl)チャネルと呼ばれる大型のポアを持つアニオンチャネルが、心筋や脳、腎臓などでATP放出性イオンチャネルとして機能していることを明らかにしていたが、Maxi-Clチャネルがどのようなタンパク質から構成されているのかは不明であった。
今回の研究では、Maxi-Clチャネルを構成するコア分子がSLCO2A1タンパクであることが明らかになった。SLCO2A1タンパクは、プロスタグランジントランスポータ(PGT)として働くことがすでに知られており、今回、SLCO2A1タンパクのプロスタグランジン輸送機能を阻害することが知られる薬剤や、PGT機能を減少させるSLCO2A1変異が、Maxi-Clチャネル電流を顕著に抑制することがわかった。
また、マウスの心臓を用いた系で、虚血-再灌流時におけるATP放出にSLCO2A1がその通路として関与することも明らかになっていることから、同研究グループは、今後Maxi-Clチャネル/SLCO2A1をターゲットとすることにより、心臓や脳における虚血-再灌流時に発生する組織のダメージを軽減するような治療法の開発などの一助となることが期待されると説明している。