名古屋大学は、同大大学院生命農学研究の後藤寛貴特任助教らの研究グループが、巨大なカブトムシの角が、幼虫から蛹(サナギ)になる際に短時間で現れる理由に関して、カブトムシは角を「小さく折り畳んだ状態」で形成しておき、脱皮時にそれを「一気に展開」するという二段階のステップにより角を作っていることを実験的に示したことを発表した。この成果は10月24日、英国のオンライン国際専門誌「Scientific Reports」に掲載された。
カブトムシの幼虫の頭の中には、角の前駆体である「角原基」が存在しており、それは複雑に折りたたまれた袋状構造となっている。後藤特任助教らは、その複雑な袋状構造をコンピューターに再構築し、それを計算により膨らませるだけで、完全な蛹の形態が出現することを証明した。しかし、「膨らませた時に見事な三次元形になるしわしわ構造を折りたたんだ状態で作る」というプロセスが、どのように行われているかが謎であった。
研究グループは、カブトムシの角を実験モデルとして研究を開始しました。 まずは、完成した原基が角へと変化する際に、折り畳みの展開以外の要因(細胞増殖や細胞移動、部分的な伸展や収縮など)が関わっていないかを検証した。通常、2時間を要する展開プロセスを人為的に1分に縮め、細胞が増殖する時間をなくしても原基はきちんと角の形状へと変化した。
次に、ホルマリン固定した角原基でも角へ変化するかを調べたところ、原基は角の形状へ変化した。これにより、原基の細胞が生きていないとできない細胞移動や能動的細胞変形は、原基から角への変化には関わらないことがわかった。
最後に、実際の角原基を元にコンピューター上にバーチャル角原基を作成し、このバーチャル角原基を表面が伸展・収縮しないような条件のもとに、コンピューター上で展開させたところ、原基はきちんと角の形状へと変化した。
これらの実験結果より、角原基から角への変化は、既に形成された折り畳みを物理的に展開するという単純なプロセスであると結論付けられたとしている。
また、角原基の折り畳みしわパターンを詳しく観察すると、角原基の場所ごとにしわの方向性や深さなどに違いがあり、それぞれのしわをバーチャル化してシミュレーション上で展開させると、しわパターンごとに異なった形状に展開された。
これらのことから、原基の形成過程で適切な位置に特定の折り畳みしわパターンを形成すれば、あとはそれを物理的に展開するだけで、三次元形態を作ることができるといえる。
研究グループは今後、原基の形成過程で局所的な折り畳みしわパターンを形成するプロセスを研究していくことで、「折り畳みと展開」を通した三次元形態形成機構が明らかになっていくことが期待されるとしている。