京都大学(京大)と大阪大学(阪大)は10月30日、新規ナノファイバー材料を用いて、安全性と配向性、3次元構造を持ったヒトiPS細胞由来の心筋細胞の組織構築に成功したと発表した。
同成果は、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 劉莉 連携准教授、京都大学工学研究科 李俊君研究員、大阪大学大学院医学系研究科組織・細胞設計学共同研究講座 南一成特任准教授、フランスパリ高等師範学校 陳勇教授、大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 澤芳樹教授らの研究グループによるもので、10月26日付の米国科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。
生体内の心筋細胞は筋繊維が配列した3次元構造を持つが、これまでの平面的な細胞培養法で得られた心筋細胞は配列構造を持たないものであったため、筋繊維構造や収縮力、電気生理学的性質について、実際の心臓と性質が異なることが課題となっていた。
今回、同研究グループは、安全性の高い生体分解性素材であり、臨床現場でも利用されている乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)を用いて、太さや密度、配向性を心筋細胞培養に最適化したナノファイバー(Aligned Nano-Fiber:ANF)を開発した。
同ナノファイバーは、ヒトiPS細胞由来の高純度心筋細胞を組み合わせることで、ナノファイバーに沿って細胞が配列したヒト心筋組織片を作製でき、3次元組織培養を行うことで、実際の心臓組織に近い3次元多層構造と筋繊維の配列構造を伴った、ナノファイバー融合型の心筋組織片を構築できる。
同ナノファイバー心筋組織片をラット心筋梗塞モデルに移植し、心筋細胞の生着能と心機能を解析したところ、移植後2カ月にわたって厚みのある細胞組織の生着が認められ、同時に梗塞で低下した心機能の有意な改善が見られたという。
同研究グループは今後、創薬や再生医療分野での実用化を目指し開発を進めていく考えだ。