京都大学(京大)は、乳児型Pompe病患者から作製したiPS細胞を用いて、同疾患の骨格筋病態を再現することに成功したと発表した。

同成果は、京大大学院医学研究科発達小児科学の吉田健司元 助教、京大CiRA臨床応用研究部門の櫻井英俊 准教授らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

Pompe病は、ライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素が生まれつき欠損することで、骨格筋や心臓にグリコーゲンが異常に蓄積する病気だ。酵素が完全に欠損する乳児型Pompe病では、無治療で長期に生存することが難しく、酵素を補充することにより生存率は改善しているが、骨格筋症状への効果は限定的だ。また、グリコーゲン蓄積が骨格筋症状を引き起こす機序も十分解明されていない。

今回の研究では、乳児型Pompe病患者から作製したiPS細胞を筋肉細胞に分化させた。患者由来の筋肉細胞では、この病気の特徴であるライソゾーム内のグリコーゲン蓄積を認め、それらは酵素を補充することで改善することが確認できたという。さらに、グリコーゲン蓄積が筋肉細胞に与える影響を解析したところ、ライソゾームが細胞内代謝を調節する際に重要なmTORC1の活性化が障害されていることが観察され、mTORC1に関連した細胞内エネルギー状態やミトコンドリア機能の悪化も認めたとしている。

今回の成果を受けて研究グループは、mTORC1活性化障害が乳児型Pompe病の骨格筋病態の一部であることが推測されるとしている。また、今回の研究は、より良い治療法や新しい治療法の開発に役立つと期待されるとコメントしている。

iPS細胞由来筋細胞のライソゾーム内グリコーゲン異常蓄積。aは、グリコーゲンを検出するPAS染色。患者iPS細胞由来の筋細胞(Pom)では、健常者の方(Ctr)に比べ、細胞核の周囲に濃染する顆粒を多数認めることができる(バー:10μm)。bは、免疫染色。患者iPS細胞由来の筋細胞(Pom)では、健常者(Ctr)に比べ、細胞核の周囲にライソゾームを示す緑色(LAMP2)を多数認めることができる(バー:10μm) (出所:京大Webサイト)