産業技術総合研究所(産総研)は10月25日、放射光表面X線回折法を従来比で約100倍高速化し、燃料電池などのエネルギー変換に伴う原子の動きをリアルタイムに観察できる技術を開発したと発表した。

同成果は、産総研物質計測標準研究部門ナノ構造化材料評価研究グループ 白澤徹郎主任研究員、物質・材料研究機構ナノ材料科学環境拠点 増田卓也主任研究員、東京学芸大学教育学部 Voegeli Wolfgang助教、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所 松下正名誉教授らの研究グループによるもので、10月26日付の米国科学誌「The Journal of Physical Chemistry C」オンライン版に掲載された。

燃料電池や蓄電池では、固体電極と液体との界面での電気化学反応により、化学エネルギーから電気エネルギーへの変換が行われる。変換効率を飛躍的に高めるには、反応機構の理解が重要であり、反応機構を反映する電極表面の詳細な構造変化をリアルタイム観察できる技術が求められていた。

一方、表面X線回折法は、液体や固体を透かして界面にX線を照射し、回折されるX線の強度分布を測定することで、界面構造が原子サイズの約1/10の0.01nmよりも高い精度で得られる。しかし従来法では、回折X線の強度分布を得るのに単一波長のX線を用いて試料の角度を変えながら1点ずつ測定していたので、測定に数分以上かかるという課題があった。

今回の研究の方法では、放射光X線を"プリズム"に相当する湾曲結晶に通して、波長ごとに異なる方向から試料の1点に集束する多波長のX線にして試料に入射させた。このX線は試料の1点から波長ごとに異なる方向に回折するので、2次元X線検出器を用いることで、各波長の回折X線の強度を一度に計測できる。

多波長での計測により、従来法と同等の回折X線強度分布が一度に得られ、界面構造に関する情報を1秒以下で得られるため、界面構造の変化をリアルタイムに観察することができる。同技術により今回、メタノールの電気分解中のモデル電極表面の白金原子の動きをリアルタイムで観察することに成功している。

今後同研究グループは、燃料電池電極の劣化過程の観察や蓄電池の界面反応過程の観察を行っていくとしている。

固液界面での原子のリアルタイム観察の概念図(出所:産総研)