質量(重さ)単位の新定義となる定数を超精密に測定することに成功したと、産業技術総合研究所(産総研)がこのほど発表した。産総研のほか海外の研究機関も同様の測定に成功している。重さの単位「キログラム」はこれまで約130年もの間、世界に一つしかない金属製の「国際キログラム原器」が基準になってきた。来年11月の「国際度量衡総会」(CGPM)で産総研などの測定により信頼性が確認された定数が重さ単位の新定義として採用されると、長い間使われてきた原器は不要になる。
産総研などによると、「重さ1キロ」は1889年以降、フランス・パリ郊外にある「国際度量衡局(BIPM)」に保管されている国際キログラム原器が基準になってきた。しかし長い時間を経て原器表面のわずかな汚れなどで1キロからごくわずかに変化することが分かり、信頼性が問題になっていた。かつては長さの基準も「メートル原器」に基づいていたが、レーザー技術が進歩して1983年から光の速度を基準にしている。
重さの単位の新定義には、約200ある定数の中から量子力学の基本的な定数である「プランク定数」を利用することが2011年のCGPMで決まっていた。プランク定数はドイツの物理学者マックス・プランク博士が1900年に導入した定数だが、その値(推奨値)は最新の知見によりわずかずつ変化してきた。産総研のほか、米国やフランス、カナダなどの研究機関も、重さを正確に量る新定義としてふさわしいプランク定数の最新値を定めるための超精密測定を試みてきた。産総研は、高い精度のレーザー干渉計と表面分析システムを用いて直径約94ミリのシリコン単結晶球体の形状を1ナノメートル未満の超精密精度で測定することに成功した。この成果は世界最高レベルの精度でプランク定数の最新値を出したことを意味し、キログラムを厳密に定めるのに必要な水準をクリアしたという。
産総研以外の研究機関が行った定数の値測定でも、産総研が測定した値と近い結果が得られたことから、専門の委員会はこれらの結果を基にプランク定数の値を決定。このプランク定数が重さの新基準の定義として利用できる見通しになったという。 産総研は「世界の基本的な単位の定義に日本が関わるのは初めてで、約130年ぶりになるキログラムの定義改定に貢献する歴史的な成果」としている。
日本にも国際キログラム原器と同じ寸法・同じ材質で作られた分銅「日本国キログラム原器」が茨城県つくば市の産総研に保存されている。