日本ナショナル・インスツルメンツ(日本NI)は10月25日、同社の「LabVIEW」を中心としたNIプラットフォームベースアプローチを活用した、最新システムや業界動向などを紹介するイベント「NIDays 2017」を開催。併せてプレス向け説明会を開催し、同社が同日発表のかつてないスピードで訪れる未来に向けた技術的な進化について取り上げた年次レポート「NI Trend Watch 2018」などの内容をベースに、技術者が2018年に向けて直面する重大な課題についての分析結果などを紹介した。

年次レポート「NI Trend Watch 2018」。テーマは「FUTURE FASTER」

半導体の高性能化などに起因するさまざまな技術が統合されていく結果、設計や評価・テストといった工程の複雑化が進み、技術者には幅広い対応が求められるようになってきた昨今、特に作業量が増加する計測エンジニアには、高速かつ高効率に日々の計測業務をこなしていくことが求められるようになっている。例えば、自動車はエレクトロニクス化の進展にあわせ、従来のメカトロニクス部の計測のみならず、増加の一途を続けるECUのテストや、果てはV2V、V2Xといった車外とのネットワーク接続のチェックなども必要となる。

1つのシステムであっても、パワーマネジメント、タッチコントロール、ワイヤレス接続、センサ制御、位置情報、モータ制御など、複数の高度な機能が集約されるようになってきたが、開発の時点では、それらが正常に稼動するかどうかの評価などを行う必要があり、その作業もより複雑なものへと変化している

NIでは、40年以上にわたって、そうしたテスト/計測ニーズに向け、ソフトウェアを中心としたプラットフォームを構築することで対応を図ってきた。現在、同社のプラットフォームは3つの大きなコンポーネントで構築されている。

1つ目は、FPGAなどの先端半導体デバイスを活用したハードウェアをベースとした、ユーザー1人ひとりが必要なアプリケーションごとに計測を変更できるできる柔軟性を持った開発ソフトウェア。2つ目は、サードパーティの提供するソフトウェアとハードウェア。そして3つ目が、オープンなエコシステムの構築だ。特に、このエコシステムについては、世界中で30万人以上のユーザーが参加するコミュニティのほか、世界8000校以上での授業への導入などを進めており、そうした分野に向けた手厚いサポートを提供することで、ユーザーの成功を支援しているという。

NIが長年続けてきたプラットフォームベースのアプローチの概要

そんな同社が発表したTrend Watch 2018のテーマは「FUTURE FASTER」。もっとも注目されるのは、5Gの実用化。2017年の10月時点では、最終的な標準化に向けた仕様は固まっていないが、仮に2020年の実用化開始とした場合、現時点ですでに半導体ベンダは、テープアウトから製造、カスタマによる最終製品開発、評価、そして市場への販売、という流れの各プロセスで相応の期間が必要とされることを踏まえると、対応チップの開発を開始していなければならない。半導体チップの性能がある程度見えていれば、コンポーネントベンダや装置ベンダは、それをベースに開発を進めることができるようになる。

5Gの実用化に必要になると思われる各種技術

ただし、5Gの商用化のカギとなるのは、設計して終わりではなく、その後の5G向けデバイスやシステムのテストとなる。複数の周波数帯域に対応する必要などがあり、同社の言葉を借りれば、「どのようにテストをすれば良いのか、誰も分かっていない」という状況であり、テスト環境の構築そのものを模索していく必要があるという。そこで、同社が新たなパラダイムシフトを生み出すもの、と位置づけているのが周波数を柔軟に変更できる「ソフトウェア無線」の存在だ。同社では、5G以降では、オシロスコープやスペクトラム・アナライザと同じような存在になりうるもの、と説明している。

5Gのテストシステムに求められる要件

また、5Gは、IoTでの活用も期待されている。産業分野のIoT、いわゆるIIoT分野で得られるメリットは、稼働率や生産性、パフォーマンスの向上、打ち手が変わるインサイトの取得、現場で瞬時に判断を可能とするエッジコントロール、そして設備の故障予測などであるが、ネットワークに接続されるデバイスの数が爆発的に増加する中、その管理をどのようにするのか、デバイスの増加に伴い、同じく爆発的に増加するデータの管理をどうするか、といった課題が生じることとなる。

IIoTのエッジデバイス管理に向けたプラットフォームもすでに用意されている

そうした課題に対し同社では、「1からそうしたソリューションを開発すると非常に時間と手間がかかることとなる。そうした意味では、すでにあるものを活用するほうが有利」とし、リモートシステム管理、ソフトウェアの構成管理、データの管理などが可能なIIoTプラットフォームとそれを補完するエコシステムを提供済みだとする。このプラットフォームは、データ分析もクラウドで分析が行え、有用な部分のみをローカルに下ろすことができるなど、効率の向上も図れるといった特徴もあるという。

NIのハードウェア直接のほか、Windows OS経由でもクラウドに接続できる。また、ソフトウェアスイートを活用することで、クラウド上でのデータ分析の実施といったことも可能だという

さらに5Gではコネクテッドビークル、つまり自動車とクラウドの接続も想定されているほか、世界的な潮流として内燃機関に頼らないゼロエミッション車(ZEV)へシフトしようとしているが、そうなるとテストの様相も変化することとなる。例えばエンジンとモータでは反応速度が異なる。モータでは、シミュレーションも、より高い反応速度が必要で、実に1.2μs以下の速度でなければ、実用化に耐えられないとのことで、同社ではそれをFPGAで実現したとする。すでに、SUBARUがこうしたソリューションを活用し、SUBARU XVの電気モータ(ダイナモモータ)のECU検証における等価テストにかかる時間を見積もり時間の1/20まで削減することに成功したという。

こうした取り組みについて同社では、テストプラットフォームも一気に統合したソリューションとして提供できる、という点がNIの得意とするところであると強調する。

なお、昨今流行の機械学習についても同社では対応が可能だとしているが、「最初にデータがなければ何もできない」とのことで、何に対して機械学習を行いたいのか、そもそも計測さえしていないユーザーもおり、そうした場合に対してNIが計測から手伝うほか、ディープラーニングのパートナーなどと連携していくことで、機械学習のエッジデバイスへの実装に向けた支援なども行っていくとしていた。