10月18日から20日(太平洋夏時間)にかけての3日間、米ネバダ州ラスベガスにおいて、Adobe Systems主催のクリエイティビティ・カンファレンス「Adobe MAX 2017」が開催された。同カンファレンスの期間中にはさまざまなツールやサービスのアップデートがアナウンスされたが、中でも目玉として扱われたのが「Adobe XD CC」の正式リリースである。
本稿では、Adobe MAX中に行われたセッションや関係者からの聞き取りなどを元に、このAdobe XD CCの最新動向や今後の展望などについてレポートする。
Adobe XDは何をするツールか?
Adobe XD CCはUI/UXの作成に特化したデザインツール。2016年3月にAdobe Experience Designという名称でプレビュー版が公開され、約1年半を経た2017年10月18日にバージョン1.0として正式リリースされた。
Adobeのデザイン部門でVice Presidentを務めるJamie Myrold氏は、Adobe MAXの基調講演において「Adobe XDはデザインからプロトタイプ、そしてシェアまでをサポートするオールインワンのツール」だと紹介している。
また、Adobe XDのSenior Product ManagerであるJoan Lafferty氏は、同製品で何ができるかという質問に対して次のように語った。
「XDについて"ワイヤーフレーム作成ツール"と紹介されることがあるけれど、それは間違いです。ワイヤーフレームだけでなく、もっともっといろんなことができるんです」
その上で同氏は、Adobe XDの活用シーンとして次のような例を挙げている。
・ワイヤーフレームの作成
・WebやモバイルなどのUXデザイン
・プロダクトデザイン
・マルチプロポーザル(複数のパターンや複数のデバイスのUXを1つのファイルでデザインできる)
なぜAdobe XDを作ったのか?
Adobe XDが開発された経緯については、前述のJoan氏が詳しく説明してくれた。これまでのUXデザインの世界には単体の専用ツールというものがなく、PhotoshopやIllustrator、Adobe Compなど、いろいろなツールを駆使してデザインする必要があった。そのためには、それぞれのツールの使い方を同時に習得していなければならない。そこで、UXデザインに必要な機能のみを持った統合されたツールが必要だと判断したという。
Adobe XDは、デザインからプロトタイピング、そして開発者や顧客へのシェア、フィードバックまで、オールインワンでサポートする。さながら、バックパックひとつで旅行に出かけるような手軽さでUXデザインが行えるものを目指しているとのことだ。
正式リリースにいたるまでの経緯
最初のプレビュー版の公開以降、Adobe XDの開発チームは短い期間でのアップデートを繰り返し行い、その都度新しい機能を追加してきた。そこには開発速度に対する強いこだわりと、ユーザからのフィードバックを迅速に反映させるという姿勢が見て取れる。Adobe MAXのセッションでは、正式リリースにいたるまでの経緯をまとめたビデオの中で、これまでのアップデートのサマリーが紹介された。
・2016.03 - プレビュー版公開。デザイン、プロトタイピング、シェアをひとつのツールで可能に
・2016.04 - 方形グリッド、ラインスペーシング、ドラッグ&ドロップ、共有リンクのアップデート
・2016.05 - カラーピッカー、サブレンジ・スタイリング、アートボードの機能強化、フルスクリーンのプロトタイプ
・2016.06 - ローカライズ・バージョン、ぼかしオプション
・2016.07 - ズームツール、過去のアートボード参照、PDFエクスポート、スケッチからのコピー&ペースト
・2016.08 - 線形グラデーション、HEXショートハンド、インスタント・トランジション、韓国語サポート
・2016.09 - モバイルデバイス(iOS/Android)でのプレビュー、アスペクト比の固定、洗濯エリアのズーム、スライド・トランジション
・2016.11 - レイヤー、シンボル、ピクセル・アライメント
・2016.12 - Windows版の公開
・2017.01/02/03 - Windows版アップデート、プロトタイプへのゲストコメント、コメントへのピン配置
・2017.05 - Windows版アップデート、コピー&ペーストのインタラクション
・2017.06 - シンボルのオーバーライド、さらなるWindows版アップデート
・2017.08 - CCライブラリのサポート、アセットパネルによるスタイルの再利用
これを見ると、開発初期の段階でプレビュー公開され、ユーザのフィードバックを積極的に取り入れながら開発を進めてきた様子がわかるだろう。
ここ数か月アップデートの速度が落ちていたのは、1.0リリースに向けて全体的な性能や安定性の向上が優先されていたことが理由だと考えられる。今後は、プレビュー版のときと同様に短い間隔で継続的にアップデートするスタイルを復活させ、ユーザからのフィードバックの積極的な反映に努めていくとのことだ。