産業技術総合研究所(産総研)は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 フロンティア分子グループの石原伸輔氏らと、AISTナノ材料研究部門 CNT機能制御グループが共同で、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを継続的にモニタリングできる小型センサーを開発したことを発表した。この成果は10月16日、米国化学会の学術誌「ACS Sensors」オンライン版で公開された。
建材の防腐剤などに用いられるホルムアルデヒドは、シックハウス症候群を引き起こすほか、発がん性も疑われているなどの健康被害が問題となっているため、世界保健機関では、室内のホルムアルデヒド濃度を0.08ppm以下に維持管理するよう推奨している。しかし、ホルムアルデヒドの検知には、高価で大型な装置が必要であったり、小型の装置では測定毎に検出タグの交換が必要であったりと、継続的にモニタリングするには課題があった。
今回、研究グループは、ナノ材料のひとつであるカーボンナノチューブを使って、ホルムアルデヒドを繰り返し検知できるセンサー材料の開発に成功した。ホルムアルデヒド蒸気(HCHO)とヒドロキシルアミン塩酸塩(NH2OH・HCl)が反応すると塩酸ガス(HCl)が発生する化学反応に着目。半導体の性質をもったカーボンナノチューブは、酸性ガスに応答して導電性が上昇する。
ホルムアルデヒド自体は中性だが、ホルムアルデヒドと反応するとごく微量の酸性ガスを発生する物質を組み合わせることで、カーボンナノチューブの導電性が変化してホルムアルデヒドを検出することができる。導電性の変化を抵抗計で測定した場合、ホルムアルデヒドの検出限界は0.016ppmと極めて高感度で、しかも清浄な空気によって酸性ガスを除くことでセンサーは長期間繰り返し使用することができた。
研究グループは、このセンサー材料とふたつのLEDを組み合わせ、ホルムアルデヒドの発生を常時監視する小型装置を試作した。片方のLEDのみセンサー材料につながっており、センサーがホルムアルデヒドに曝されると導電性が上がるため、片方のLEDのみ輝度が増加する。ふたつのLEDの輝度を比べることで、0.9ppmのホルムアルデヒド濃度を検知することができた。
今回開発されたような導電性が変わる小型化学センサー材料は、スマートフォンなどの汎用電子機器へ容易に組み込むことができる長所がある。センサーと情報通信技術を融合することで、ホルムアルデヒドガスの発生を遠隔からリアルタイムで検知するなど安全・安心な社会の構築に貢献できるものと期待される。