東京理科大学は、単体元素テルル半導体に直流電流を流すことで、非磁性体であるテルルに磁性を持たせることに成功したと発表した。
同成果は、同大理学部第一部の古川哲也 助教、下川裕氏(研究当時、学部学生)、伊藤哲明 准教授と、岡山大学異分野基礎科学研究所の小林夏野 准教授らの研究グループによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
近年、電気磁気効果を起こすことができる物質による、スピントロニクスなどの次世代技術の発展が期待されている。しかし、非磁性の半導体における電気磁気効果は、微細加工を施したデバイスや物質の表面でのみ確認されているに留まり、バルク結晶における電気磁気効果の決定的な証拠は見つかっていなかった。
今回、研究グループは単体半導体テルルに電流を流し、電流が流れている間、テルルが磁化していることを「核磁気共鳴」と呼ばれる手法を用いて発見した。
単体半導体テルルは、らせん構造からなる特殊な結晶構造を有しており、結晶構造を鏡に写したときに自分自身と重ならないキラル(カイラル)という特徴を持っている。さらに、テルルは原子番号が52番目と重い元素で、スピン軌道相互作用と呼ばれる電子の軌道運動と電子のスピンの間の相互作用が強いという特徴をもつ。これら2つの性質を持つ物質では、電子が結晶中で動く方向に応じて、磁化のミクロな起源である電子スピンの方向が決まるという性質がある。
電流を流さない状態では、電子の運動方向がバラバラのため、スピンの向きにも偏りがなく磁化は生じない。一方で電流を流すと、電子の運動方向に偏りができるため、スピンの向きにも偏りができ、結果として結晶全体が磁化すると考えられる。今回、研究グループが核磁気共鳴法によって観測した電流によって誘起された磁化は、このようにテルルが持つ特有の性質に基づくものだと考えられるという。
核磁気共鳴によって観測されたテルルにおける電流誘起磁化。テルル原子核が電流誘起磁化によって生じる内部磁場を感じるため、電流を流すことでベクトルがシフトする。横軸は電流を流していないときのスペクトルの重心を基準としている (出所:岡山大学Webサイト) |
同成果に対して研究グループは、非磁性体におけるバルク電気磁気効果と言う新しい学術分野の発展へとつながるものだとしており、将来的にスピントロニクスなどの次世代情報処理技術、省エネルギー技術の発展へ寄与することが期待されると説明している。