ジョージア工科大学の研究チームは、1400℃超の高温で動作可能なセラミックポンプの開発に成功したと発表した。溶融スズなど高温の液状物質をポンプを使って移動させることができる。自然エネルギーを熱の形で保存する大型蓄熱設備などへの応用が考えられている。研究論文は、科学誌「Nature」に掲載された。

1400℃超で液体化した溶融スズ。こうした高温液体を扱えるセラミックポンプの作製に成功した(出所:ジョージア工科大学)

エネルギーを熱の形で蓄え、必要に応じて電気エネルギーに変えて取り出す蓄熱設備は、太陽熱発電などですでに実用化されている。昼間に得た太陽熱を蓄熱し、夜間の発電にも利用可能にするというもので、蓄熱材として現状では溶融塩などが使われている。

溶融塩の場合、低温状態で300℃近くという温度に設定し、これを太陽熱で加熱して500℃台の高温状態に保ち、蒸気タービンによる発電に利用するといった使い方がされている。タービンを回すために使われた後の溶融塩は低温状態に戻る。熱力学的には、蒸気発生器で吸収される熱量と復水器で排出される熱量との差が大きければ大きいほどタービンの効率は高くなるから、蓄熱材として溶融塩よりも高温の物質を使うことができれば、より高効率で熱を電気エネルギーに変換できることになる。

しかし一般的に言って、高温の物質は扱いが難しい。溶融金属のような高温液体を扱えるポンプなどの機械装置を作ることが困難なため、溶融塩の温度を超える高温蓄熱設備は実現していなかった。

研究チームは今回、耐熱性の高いセラミック材料を用いてポンプを作製した。セラミックは耐熱性に優れるものの壊れやすいため通常、機械部品には適していないとされているが、今回のセラミックポンプでは、機構が単純で比較的低速で動作させることができる外部歯車式のポンプ機構を採用し、歯車にセラミック材料を用いることに成功した。

ポンプ、パイプ、継ぎ手などの密閉材に通常使われる高分子材料は高温に耐えられないため、密閉材としてグラファイトが使用されているのも今回のポンプの特徴である。グラファイトが高温で酸化することを防ぐため、ポンプの動作環境は窒素雰囲気にしている。

試作したポンプは、1473Kの高温条件のもと、毎分数百回の回転数で72時間の連続動作が確認されている。短時間動作では1773Kとより高温での稼動も可能であったという。

セラミック製歯車には「シェイパル(Shapal)」と呼ばれる窒化アルミニウム(AlN)材料が用いられている。これはセラミックの中では比較的柔らかく加工しやすい材料であるため、ポンプが動作を続けるうちに磨耗していくという問題がある。この問題については、より硬質のセラミックを使うことで解決できるとしており、研究チームはすでにシリコンカーバイド(SiC)を使ったポンプの開発にとりかかっているという。

今回試作されたセラミックポンプで使われている歯車は直径36mmと小さなサイズだが、商用に使える大規模な装置を作る場合にも、部品サイズを劇的に大きくする必要はないという。ポンプのサイズを試作品の4~5倍にして最高速度近くで稼動させれば、移動できる熱量を1000倍程度にでき、10kW~100MWといった出力が実現できるため、発電設備での実用化も可能であると考えられている。

太陽熱発電所での蓄熱材としては、低コスト性から溶融シリコンの利用が有望視されている。溶融シリコンを扱う場合、ポンプの動作温度は2000℃超とさらに高温になるという。

その他の応用分野として、メタンを原料とする水素燃料生成なども挙げられている。撹拌したメタンを高温の溶融スズの中に導入することで、メタンの分子が分解され、水素と固体の炭素を生成できる。これにより、二酸化炭素を発生させずに水素燃料を得ることができるが、この装置の部品としても今回のポンプが使えるという。