オーストリアamsは10月10日(現地時間)、オートモーティブグレードのPSI5 I/F対応磁気ポジションセンサである「AS5172A/B」を発表したが、これにあわせて本社CEOが来日して記者説明会が開催されたので、この内容をお届けする。

Photo01:2016年3月より同社CEOを務めるAlexandra Everke氏。前職はNXP SemiconductorsのEVPであった

まず最初に挨拶に立ったCEOのAlexandra Everke氏がビジネス動向全般の説明を行った。同社はアナログの、特にセンサ類を得意とするメーカーであり、さらに言えば自社で200mmのファブを保有し、特に高電圧CMOSに強みを持つという、いわゆるニッチ向けメーカーである。分野はC&C(Consumer & Commnications)とAIM(Automotive, Industrial & Medical)に絞り込んでおり、全世界に8000名の従業員を持つ。国内だと2015年に、品川にデザインセンターを開設している。売り上げは順調であり、現在はAIMとC&Cがほぼ同等の比率になっている(Photo03)

Photo02:実はファブでいうと2016年末よりニューヨークに新しい200mmウェハのファブを建設中であり、2018年末に稼動する予定である。ちなみに採用プロセスが130mmのCMOSというあたり、ターゲットがデジタルではないことが明白である

Photo03:もっとも2016年の上半期は特にC&Cが落ち込んだこともあり、2015年比で売り上げが11.7%落ち込んでいる。ただ一過性のものだったのか、再び元に戻った感じだ

さて、同社は2016年に組織変更を行い、「Optical」「Imaging」「Environment」「Audio」という4つの事業部門に絞り込んで製品展開を行っている(Photo04)。もう少し具体的な製品展開がこちら(Photo05)で、さまざまなセンサ群とこれを支える処理ICなどがラインアップされている(Photo06)。

Photo04:左端がコアになるセンサ技術。それを組み合わせたハードウェア/ソフトウェア技術(中央)をベースに、ソリューション(右)を提供する、という方針

Photo05:もともと輝度センサ関係には強かった同社だが、さまざまなメーカーの買収を経て、特に光学系センサでは独創的な製品を次々に投入している。また環境センサに関してもずいぶん品揃えが充実してきた

Photo06:面白いのはスペクトルセンサもCMOSベースという点であろう。回折格子をCMOSベースで構築し、これとセンサを組み合わせることで非常に広帯域なスペクトルセンサを低価格で実現できるとしている。ToFは光を利用した距離測定である

まずOptical/Image Sensor(Photo07)では色温度やカラースペクトル、ToF(Time-of-Flight)まで含めたさまざまなセンサが用意されており、Image Sensorには、アリと同じくらいの大きさのセンサがラインナップされている。このイメージセンサは会場でデモ展示も行われていた。特にスペクトルセンサの場合、カラーマッチングや農作物の糖度判定、医療用となどさまざまな応用が可能としている(Photo08)。

Photo07:ちょっと対比物がないのでサイズが判りにくいが、非常に細いチューブの中にある黒い部分がイメージセンサ。なんでも医療用カテーテルの中にこれを埋め込めるサイズなのだそうだ

Photo08:スペクトルセンサの場合、色のカバー範囲がsRGBなどを超えて人間の目とほぼ同等の範囲まであるとの話であった

Imagingに関しては、特にカメラを利用しての距離判定機能が最近大きな話題になっているが、これに関してもパターン照射、ステレオカメラ、それとToFの3種類のソリューションを提供する、としている(Photo09)。同社の場合、IRイルミネータとして「VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:垂直共振器面発光レーザ)」の技術を保有して製品として提供しており、Image Sensorとあわせてワンストップで製品を提供できる点が強みとする。実際、会場では、ステレオカメラ+パターン照射での動作デモも行われた(Photo10)。特に机のようにフラットな物体だと、ステレオカメラだけだと正しく位置を認識できない場合があるが、パターン照射を組み合わせることで、こうしたケースでも認識率が上がる、という話であった。

Photo09:Structured lightは、Qualcommの第2世代ISPにも出てきた、IRイルミネータでパターンを照射し、そのパターンから距離を判別するという方法

Photo10:下の2枚がステレオカメラの映像、上が距離測定結果。色が赤いほど距離が近いことを示す

自動車向けの分野ではADASや自動運転に向けてのLiDAR(最近は2D LiDARから3D LiDARにシフトしつつある)や運転者監視、照明などに向けて同社のVCSELや3D Imaging、Micro Lensなどのソリューションが利用できるとする(Photo11)。Industrial(Photo12)も似ており、さまざまなセンサーが活用できるとする(Photo12)。医療分野(Photo13)も同様である。最後がもともと同社が得意としていた照明制御(Photo14)で、特に低価格なセンサが多数利用されることを同社としては望んでいるという話であった。

Photo11:LiDARなどには同社のVCSELやこれを使ったToFソリューションが利用できる。運転者監視(居眠りとか注意散漫とか)はPhoto09のソリューションがそのまま利用可能である。照明については、写真のイメージはBMWの新しい7シリーズで導入された、Welcome Light Carpetであるが、ほかにも進行方向に照射するヘッドライトなどもある

Photo12:画像認識を利用してのロボットの制御や危険監視などに加え、ロボットの状態とか周囲環境の認識なども同社の範疇にあるとする

Photo13:トイレの"Heath monitoring"(Health monitoringのTypoであろう)は、座っただけで血圧とかを自動測定してくれるスマートトイレットの事である。また先の超小型Image Sensorを使った使い捨て内視鏡(カプセル型)なども現実的であるとする

Photo14:単に照明だけでなく、HABA(Home Automation/Building Automation)向けに温度湿度や二酸化炭素濃度などさまざまなセンサが活用できるとしている

さて、本題の磁気ポジションセンサである(Photo15)が、今回は表面実装型(AS5172B)とSIP(AS5172A)の2種類が用意される。

Photo15:AS5172の説明を行ったThomas Mueller博士(Director Marketing, DIV Sensors and Sensor Interfaces)

どちらもトレーニングなしで高い精度を実現しており、150℃までの動作温度がサポートされ、AEC-Q100とISO 26262の両方に準拠している(Photo16)。

Photo16:これまではI2CやPWM、あるいはアナログ出力というのが一般的で、PSI5ベースは今回が初製品

ただ同種の製品はすでに同社は多数ラインアップしているが、PSI5対応というのは今回が初である(Photo17)。スペックはこんな感じ(Photo18)で、PSI5 2.0にも対応するが、後方互換性の維持のためにPSI5 1.3もサポートするとしている。また、特にSIPタイプの場合は外部コンポーネントもパッケージ内に収められているため、右上の写真にあるようにPCBなしで直接デバイスに組み込みも可能、としている(Photo19)。

Photo17:Product Mix。SPIやI2C、PWMかアナログというのが一般的であった

Photo18:分解能は0.09°/12bit、精度は±1°未満とされる。両者の違いはパッケージだけ

Photo19:データシートにアクセスできないので判らないのだが、逆にAS5172Bはなんで14pinも出ているのかが良くわからない。センサでサイズが決まってしまい、実装用に足が出ているだけなのかもしれないが

ところでPSI5バスのサポートの最大の理由は、配線の削減である。PSI5の場合、2本の信号線を使った電流変調方式で、センサの電源供給用の信号線が不要になる(Photo20で端子は3本あるが、中央はGNDなので配線は要らない)。これによる配線重量削減が、特に電気自動車(EV)などでは非常に重要視される、というのが今回の製品構成の狙いという話であった。

Photo20:「IndustrialやDroneはいつぐらいを想定しているのか?」という話を伺ったところ「中長期」という話で、今すぐどうこうという話ではないそうだった

AS5172の製品ページ)によると、「アクセル/ブレーキペダルやストッロル開度センサ、ステアリング、EGR、非接触型ポテンショメータ」などに最適とされており、センサの数を増やせば増やすほど、配線量の少なさがメリットになる、ということであろう。

ちなみに現在はまだ自動車向けがメインだが、今後はIndustrialやDroneの応用もありうるという話であった(Photo20)。