米国の宇宙企業スペースXは2017年10月12日(日本時間)、「ファルコン9」ロケットの再使用打ち上げに成功した。使われたのは今年2月に「ドラゴン」補給船を国際宇宙ステーションに打ち上げた機体で、今回が2回目の飛行。ファルコン9の再使用打ち上げは通算3度目となった。
またファルコン9の打ち上げ数は今年だけで15機目となり、単独でロシアのすべてのロケットの打ち上げ数に並んだ。
ロケットは日本時間10月12日7時53分(米東部夏時間10月11日18時53分)、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの第39A発射台(LC-39A)から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約36分後に、搭載していた通信衛星「エコースター105/SES-11」を分離して軌道に投入。打ち上げは成功した。
また、途中で分離されたロケットの第1段機体はその後、打ち上げから約8分30秒後に、大西洋上に待機していたドローン船「もちろんいまもきみを愛している(Of Course I Still Love You)」号への着地に成功した。
ファルコン9はこの約60時間前にも、西海岸のカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から10機の「イリジウム」衛星を打ち上げており、わずか3日足らずで2機の打ち上げに成功したことになる。ちなみに今回の打ち上げは当初、今月の7日に予定されており、イリジウム衛星よりも先に打ち上げられるはずだったものの、試験で問題が見つかったため順番が入れ替わったという経緯がある。
ファルコン9の打ち上げは今年15機目となり、ファルコン9だけで今年ロシアが打ち上げたソユーズやプロトンなどのすべてのロケットの打ち上げ数と並び、世界トップに立った。
エコースター105/SES-11
エコースター105/SES-11(EchoStar 105/SES-11)は、米国の衛星通信会社エコースターと、ルクセンブルクの衛星通信会社SESとが、共同で保有する通信衛星。24本のKuバンドのトランスポンダーと、同じく24本のCバンドのトランスポンダーを搭載しており、前者がエコースター、後者がSESのペイロードとして、それぞれの前世代の衛星を代替し、北米大陸やメキシコ湾、カリブ海地域に向けて通信サービスを提供する。
衛星の製造は欧州のエアバス・ディフェンス&スペースが担当。打ち上げ時の質量は約5200kg、設計寿命は15年が予定されている。
SESによると、打ち上げ後、衛星からの信号受信に成功し、衛星の状態が正常であることを確認しているという。
米軍の追跡データによると、衛星は遠地点高度4万526km、近地点高度314km、軌道傾斜角27.9度の、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道に投入されている。このあと衛星は自身のスラスターを使い、11月下旬ごろに西経105度の静止軌道に入る予定になっている。
ファルコン9、通算3度目の再使用打ち上げ
今回打ち上げられたファルコン9の第1段機体は、今年2月に「ドラゴン」補給船運用10号機を打ち上げた機体(シリアル番号1031)を再使用したもので、2回目の打ち上げとなった。
スペースXではロケットの打ち上げコストを大幅に引き下げることを目指し、飛行機のように何度も繰り返し打ち上げられるロケットの開発を行っている。まずファルコン9の第1段機体を回収する実験から始め、何度かの失敗を経て安定して回収できるようになったのち、今年3月には初の再使用打ち上げに成功。そして6月にも成功し、今回が同社にとって通算3度目の再使用打ち上げとなった。
今回打ち上げられた衛星のオーナーの一社であるSESは、かねてよりスペースXの再使用打ち上げとそれによる打ち上げコスト低減というアプローチに好意的で、3月の初の再使用打ち上げを行った際に搭載されていたのも、SESの通信衛星「SES-10」だった。さらに来年1月にも、再使用ファルコン9による「SES-16」の打ち上げが計画されている。
これまでの3回の再使用打ち上げに使われたのはそれぞれ別の機体で、つまりそれぞれ2回目の飛行を行ったことになる。この3機は"再回収"にも成功しているため、いずれどれかの機体が3回目の打ち上げに使われる可能性もある。
再使用する場合の打ち上げコストは、新品の場合に比べ、およそ30%ほど削減できるという。しかし、価格にはあまり反映されておらず、"大幅な"値引きはされていないことが、スペースXと衛星会社の双方から明らかにされている(ただし具体的な金額は明らかになっていない)。
これはスペースXがファルコン9を再使用可能にするために費やした、約10億ドルともされる開発費の投資を回収するためだという。再使用によりコストが下がっているのは間違いないため、それを従来とあまり変わらない金額か、あるいはコスト削減率より低い10~20%の値引き額で販売すれば、その分多くの利益がもたらされ、開発費の回収が進むことなる。
また、ファルコン9の再使用は、現時点ではまだ試験的なものだが、現在開発中の改良型「ファルコン9 ブロック5」からは標準的なものになるとされる。ブロック5の初打ち上げは2018年3月ごろに予定されている。
スペースXを率いるイーロン・マスクCEOによると、将来的には打ち上げコストはさらに下がり、また1回の打ち上げから24時間で再打ち上げができるほど、ロケットの整備も簡素化できるとも語っており、いずれは推進剤の価格よりも少し高いくらいのコストで打ち上げられるようになるという。それが数年のうちに実現するのか、それとも先日明らかにされた巨大ロケット「BFR」から可能になるのかなど、明確なスケジュールはまだ明らかになっていない。
スペースXは今年中に、コリアサット5Aの打ち上げを含む合計5回の打ち上げを予定しており、直近では今月31日に、ファルコン9による韓国の通信衛星「コリアサット5A」の打ち上げが予定されている。この打ち上げでは再使用ではなく新品のファルコン9が使われる。
また、この5回の打ち上げのうち1回は、ファルコン9を3機束ねたような超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の初打ち上げとなる予定となっている。
参考
・EchoStar 105/SES-11 Mission Press Kit | SpaceX
・EchoStar 105/SES-11 Mission | SpaceX
・EchoStar 105/ SES-11 Successfully Launched on SpaceX’s Falcon 9 | SES
・SpaceX launches its 15th mission of the year - Spaceflight Now
・Sunset Launch & Twilight Landing for Third Re-Used Falcon 9, SES 11 Satellite Enters GTO - Spaceflight101
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info