マサチューセッツ工科大学(MIT)とドイツの研究チームは、磁気スキルミオンを特定の位置に自由に作り出すことに成功したと発表した。磁気スキルミオンを利用した高密度磁気メモリの実現に向けた重要な成果であるとする。研究論文は、「Nature Nanotechnology」に掲載された。
磁気スキルミオンは、金属薄膜上に現れるナノスケールの渦状磁気構造(仮想的な磁性粒子)である。2009年にミュンヘン工科大学の研究チームによって初めてその存在が確認された。電界をかけることによって磁気スキルミオンを操作・制御することができるため、データ保存のための磁気媒体などに利用できると考えられている。
通常の磁気ストレージデバイスで使用される個々の磁極の向きが容易に変化するのに比べて、磁気スキルミオンは外部摂動に対して非常に高い安定性を示す性質があることがわかっている。このため、磁気スキルミオンを利用することで原子数個分といった極めて小さな磁性領域にデータを長期保存することが可能になるとされ、既存のデバイスを超える超高密度のデータ保存デバイスとして期待されている。
MITの研究チームが2016年に報告した研究では、磁気スキルミオンが発生する位置は完全にランダムであるとされていた。今回の研究では、磁気スキルミオンを特定の位置に自由に発生させることが可能であることを初めて実証したとする。これは磁気スキルミオンをデータ保存に利用するためには不可欠な技術であるといえる。
研究チームは、磁極の方向が異なる原子同士が接している境界領域に注目してきた。この境界領域は、磁性金属の内部を行ったり来たり移動することができる。これまでの研究から、磁性金属薄膜に磁性をもたない重金属層を近接させることによってこの境界領域を制御できることがわかっていた。磁性をもたない重金属層に電界をかけることによって、磁性金属層に影響を与えて磁気スキルミオンを発生させることができるという。
問題は磁気スキルミオンの発生位置をランダムではなく、ねらった位置にピン留めすることであるが、それには材料中の欠陥を利用する。磁性金属層にある種の欠陥を導入すると、この欠陥に磁気トラック中の「くびれ」のような働きをさせることができる。この「くびれ」を使って、磁気スキルミオンの発生位置を自由に決められることを今回実証できたとする。
磁気スキルミオンは、ハードディスクのような磁気記録メディアとしてだけでなく、高速動作するランダムアクセスメモリ(RAM)としてコンピュータの演算に応用できる可能性もある。ただし、こうしたメモリデバイスに磁気スキルミオンを利用するためには、保存したデータを効率よく読み出す必要がある。
いまのところ、データの読み出しにはX線磁気分光を用いた方法が使われている。しかし、コンピュータ用メモリとして実用化するには複雑すぎてコストも高い。このため、もっと効率のよい読み出し方法を開発することが課題となっている。研究チームでは、特殊なテクスチャーをつけた金属層を追加することによって、磁気スキルミオンの有無による電気抵抗の違いを検出するという方法を検討しているという。