名古屋大学は、同大大学院医学系研究科 分子病理学の白木之浩助教、髙橋雅英教授らの研究グループが、神経膠腫において、GPIアンカー型膜タンパク質CD109を発現する血管周囲の腫瘍細胞が、腫瘍の悪性化に大きく関与していることを明らかにしたことを発表した。この研究成果は9月9日、英国・アイルランド病理学会誌「The Journal of Pathology」のオンライン版で公開された。

CD109の免疫組織化学染色(出所:ニュースリリース※PDF)

原発性悪性脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍である「神経膠腫」は、手術や化学放射線療法などの治療に抵抗性を示し、進行することがある。腫瘍の進展や治療への抵抗性には、腫瘍内の血管周囲などに存在すると言われる「脳腫瘍幹細胞」が深く関わっていると考えられるが、その詳細なメカニズムに関しては不明な点が多い。

今回、研究グループはGPIアンカー型膜タンパ ク質CD109に注目した。ヒトの神経膠腫内でのCD109の発現量を免疫組織化学染色で計測した結果、CD109高発現群は、低発現群と比較して予後不良であることがわかった。また、免疫組織化学染色を詳細に検討したところ、特に悪性度が高い神経膠腫でCD109が血管周囲の腫瘍細胞に多く発現しているという結果が得られた。

神経膠腫のマウスモデル及びCD109ノックアウトマウスを用いた動物実験においても、ヒトの結果と同様の結果が得られた。CD109の高発現によって神経膠腫によるマウスの死亡率が上昇し、より悪性度の高い腫瘍がマウスに形成され、さらに血管周囲の腫瘍細胞にCD109が存在することも確認できた。

CD109の生存曲線(出所:ニュースリリース※PDF)

このマウスモデルから「脳腫瘍幹細胞」を単離し、CD109の発現を計測すると「脳腫瘍幹細胞」においてCD109 の高発現が認められ、血管周囲の腫瘍細胞が「脳腫瘍幹細胞」であることが示唆された。さらに、神経膠腫マウスモデルに対して化学療法(テモゾロミドの投与)を行ったところ、 治療後にも関わらずCD109を高発現している血管周囲の腫瘍細胞が生き残っており、この細胞が化学療法に耐性のある細胞であることが示唆された。

研究グループは今後、CD109を標的とした治療法を開発することで、悪性化や治療抵抗性に関わっている細胞を直接攻撃でき、これまでの治療に対して効果がなかった症例にも効果のある治療法となり得ることから、この研究はCD109に対する治療開発に期待が持てる成果であると説明している。