宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月10日、硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケット FOXSI(Focusing Optics X-ray Solar Imager)と太陽観測衛星「ひので」の観測データから、一見太陽フレアが起きていないように見える領域でも、ナノフレア(微少なフレア現象)が発生していることを示すことに成功したと発表した。

ナノフレアが頻繁に発生することによって数百万度のコロナが保たれるとする仮説は、「コロナ加熱問題」を解決する有力な説のひとつとなっており、今回の結果はコロナ加熱を説明する理論モデルに大きな制限を与えることになる。同研究成果は、宇宙科学研究所の石川真之介研究員が率いる国際共同研究グループによるもので、2017年10月9日発行の英国科学誌「Nature Astronomy」に掲載された。

太陽X線観測ロケット FOXSI(Focusing Optics X-ray Solar Imager)と太陽観測衛星「ひので」の観測データから、太陽フレアが起きていないように見える領域でも、ナノフレア(微少なフレア現象)が発生していることを示すことに成功した(出所:JAXAWebサイト)

太陽には、コロナと呼ばれる高温で希薄な大気が存在している。およそ5800K(ケルビン)の太陽表面の上空に、なぜ数百万Kという高温のコロナが存在するのか、どのようにコロナが数百万Kまで加熱されるのかは解明されていない。熱源から離れるほど熱くなるというこの逆転現象は「コロナ加熱問題」として知られ、これを解き明かすことが太陽研究の長年の課題となっている。

コロナを加熱するメカニズムとしてはいくつかの仮説が展開されており、そのひとつにナノフレアによる加熱がある。ナノフレアはその名が示すとおり微少なフレア現象のことで、これが頻繁に発生することによって、コロナに熱が供給されるというこの仮説は有力となっている。また、ナノフレアが発生している場合には、コロナの典型的な温度よりもさらに高い1000万K以上の超高温プラズマが存在することがシミュレーションで予言されている。しかし、超高温プラズマの存在を確実に示す観測結果は存在しなかった。

石川真之介(JAXA宇宙科学研究所)率いる国際共同研究グループは、2014年12月に米国ホワイトサンズより、硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケットFOXSIを打ち上げた。そして、およそ6分間の観測時間に太陽の複数の領域を観測することに成功した。FOXSIは、超高温プラズマからの微弱なX線をこれまでにない高い感度で観測できる。FOXSIは国際協力で最先端の技術を集結させて作られており、搭載されたX線望遠鏡は米国のチームにより開発され、低ノイズ・高分解能の半導体X線イメージング検出器は日本のチームが開発した。

さらに太陽観測衛星「ひので」でも同時観測を実施。FOXSIは1000万K以上の超高温プラズマに高い感度を持っており、「ひので」に搭載されたX線観測装置は数百万Kのプラズマに高い感度を持っている。そのため、二つの観測装置で調べることで、観測した領域の温度構造を詳しく調べることが可能となる。

今回のFOXSIによる観測では、太陽活動領域でフレアによるX線の増光現象が発生していない状態で、有意な硬X線放射を検出しました。研究グループはFOXSIと「ひので」のX線望遠鏡のデータを解析し、コロナの温度構造を高精度で見積もった。その結果、数百万度のコロナの主成分と比べてごくわずかながら、1000万K以上の超高温成分が存在することが明らかになった。つまり、これは一見太陽フレアが起きていないように見える領域でもナノフレアが発生していることを示す結果だとしている。

今回の結果は、コロナ加熱を説明する理論モデルに大きな制限を与えることになる。同研究グループは、太陽に超高温のプラズマが常に存在することを示すとともに、X線高感度・高分解能観測の有効性を示すことにも成功した。

ただし、この証明に用いられたロケット実験の観測時間は6分間と短く、今回はひとつの領域についての結果にすぎないことから、ナノフレアによるコロナ加熱のメカニズムを明らかにするためには、より多くの領域の観測や長時間の観測が必要となる。そのため、同研究グループでは、国内での観測衛星の提案や、米国のチームと共同でNASAに衛星計画を提案するという活動を進めている。