東京工業大学(東工大)は10月3日、軟骨魚類の対鰭の筋肉の発生様式が、従来の定説と異なり、遊離筋の特徴をもつ筋芽細胞からつくられることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東京工業大学大学生命理工学院生命理工学系 田中幹子准教授、同大学院生の岡本恵里氏、理化学研究所 倉谷滋主任研究員、日下部りえ研究員、工樂樹洋ユニットリーダー、東京大学 兵藤晋教授、スペインCRG ジェームス・シャープ教授らの研究グループによるもので、10月2日付の国際科学誌「Nature Ecology & Evolution」に掲載された。
サメやエイを含むグループである軟骨魚類は、ヒトを含む顎口類の原始的な状態を知るのに適したモデルとして使われている。ヒトの手足の筋肉である四肢筋は、移動能力を持つ筋芽細胞である遊離筋が、皮筋節とよばれる骨格筋のもととなる構造から分離し、四肢の原基の中へ移動することでつくられる。また、遊離筋は「Lbx1」という遺伝子を発現するという特徴をもつ。
一方、軟骨魚類の対鰭の筋肉(対鰭筋)はこれまでの研究から、皮筋節が鰭の中にまで伸長することによってつくられるとされており、トラザメにおいては胚の筋芽細胞におけるLbxタンパクの存在も認められていなかった。したがって、対鰭・四肢の筋肉の原始的な発生様式は遊離筋ではなく、皮筋節の伸長によるものと考えられてきた。
しかし今回、同研究グループが、軟骨魚類トラザメ属の胚に着目し、対鰭筋の発生様式を再検証したところ、トラザメ胚の対鰭の原基でLbx1遺伝子を発現する細胞群が観察された。この特徴は、全頭類のゾウギンザメ胚でも確認されたことから、軟骨魚類で共通した特徴であると考えられるという。
また、トラザメ胚の対鰭の原基で、皮筋節由来の細胞や筋芽細胞であることを示す遺伝子の発現も観察されたことから、軟骨魚類の対鰭筋が、四肢動物と同じくLbx1を発現する皮筋節由来の筋芽細胞によって作られることが示された。
今回の結果は、軟骨魚類の対鰭筋の発生様式が、従来の定説と異なり、遊離筋の特徴をもつ筋芽細胞からつくられ、ヒトの四肢筋と類似することを示したものであるといえる。これにより、四肢の筋肉をつくる発生様式は、これまで考えられていたよりも古い起源をもつ可能性があると同研究グループは説明している。