産業技術総合研究所(産総研)は、同所分析計測標準研究部門の津田浩 総括研究主幹、同部門 非破壊計測研究グループの李志遠 主任研究員、王慶華 研究員と、東芝デバイス&ストレージが共同で、結晶の透過電子顕微鏡画像から欠陥を検出できる画像処理技術を開発したことを発表した。同技術の詳細は9月19日、英国科学誌「Nanotechnology」のオンライン版に掲載された。
GaN半導体は近年、次世代の省エネ用電力変換・制御デバイス(パワーデバイス)として期待されている。その性能や寿命を保証するため、デバイスの製造時に発生する構造欠陥を精密に制御するプロセス技術の確立が求められており、これまで、原子レベルの欠陥は、透過電子顕微鏡で撮影された高分解能原子配列画像を人が観察して評価していた。しかし、高倍率にするほど視野が狭くなり、広範囲にわたって評価することは極めて困難であった。
今回、研究グループが開発した画像処理技術は、結晶の透過電子顕微鏡画像の広い領域で欠陥を容易に検出できるもの。結晶の原子配列を規則的な格子と見なし、サンプリングモアレ法からモアレ縞を作成する。モアレ縞は結晶格子を拡大した模様に相当することから、格子に変形をもたらす転位が存在する箇所ではモアレ縞に不連続な変化が現れると考えられる。
研究グループは、Y軸格子に4つの転位を含む2次元格子配列像を作成した。通常、透過電子顕微鏡で撮影された原子配列画像には多くのノイズが含まれ不明瞭である。実際の電子顕微鏡画像を模擬するため、前述した2次元格子配列像にノイズを重ねた解析画像を作成した。この解析画像をフーリエ変換フィルタリングするとX軸方向やY軸方向だけの格子像に分離できる。
用いた画像のY軸方向の格子間隔は比較的大きいため、Y軸格子像から4つの転位が観察できるものの、格子間隔が狭い場合は転位の観察は難しい。さらに転位の検出を容易にするため、フーリエ変換フィルタリング処理から得られた格子像をサンプリングモアレ法により拡大した。格子間隔を拡大したサンプリングモアレ縞の位相図では、転位はモアレ縞の終点や分岐点として目視で検出できる。また画像処理によってモアレ縞の終点や分岐点を自動的に検出して、電子顕微鏡画像全体で転位の数や分布を評価できる。
次に、この画像処理技術をGaN半導体の透過電子顕微鏡画像に適用し、転位の検出を試みた。この画像にフーリエ変換フィルタリング処理して得られたX軸とY軸格子像の格子間隔は狭く、格子像から転位を目視で検出することは容易ではない。そこで、この格子像にサンプリングモアレ法を適用してX軸格子とY軸格子のサンプリングモアレ縞の位相図を得た。電子顕微鏡画像の原子配列は不明瞭であったが、原子配列を拡大したサンプリングモアレ縞の位相図は明瞭で、転位を示すモアレ縞の終点や分岐点が目視でも容易に確認できる。
位相図に画像処理を施して検出したモアレ縞では、積層方向であるY軸格子には多くの転位があることがわかり、GaN層では中心部における転位が少なく、保護層やAlGaN層との界面近くには多くの転位が存在した。AlGaN層では、層全体に均一に転位が分布しており、転位密度は他の層よりも高かった。また積層方向に垂直なX軸格子の転位は、GaN層とAlGaN層の界面に集中していることが分かった。
今回開発した技術により、広い領域の透過電子顕微鏡画像から転位分布を評価できる。同技術を用いて製造プロセスが転位分布に及ぼす影響を評価することで、転位の少ない高性能・長寿命な半導体デバイスの製造プロセスの確立が期待される。
今回開発されたこの技術により、半導体デバイスの製造プロセス改良への貢献が期待される。研究グループは今後、汎用の透過電子顕微鏡画像解析システムとして画像処理ツールの提供や解析技術の製品化を目指すとしている。