SF映画やアニメなどで見かける、空中に浮かび出るタッチ可能な画面。フィクションでしか見られなかった場面が、徐々に現実のものになりつつある。それが、アスカネットの展開する「AI(Aerial Imaging)」だ。
同社は9月28日、「AI(Aerial Imaging) ー 空中ディスプレイ」事業に関して、「CEATEC JAPAN 2017」での出展を前にプレス向け説明会を実施。技術の要である「AIプレート」の量産に成功したことや、同技術の採用事例について、同社 福田幸雄 代表取締役社長が語った。
スクリーンなしで実像を結ぶ「空中ディスプレイ」
「宙に浮いて見える」映像としては、「初音ミク」などのキャラクターが舞台上に立っているように見せるものがある。これは「ペッパーズ・ゴースト」という視覚トリックを用いたもので、透過度の高いスクリーンに映像を反射させている。
同社の「AI(Aerial Imaging)」技術では、透過スクリーンなどの結像先が必要なく本当に宙に結像しており、AIプレートの前に物を置くとその像がプレートの反対側の等しい距離の地点へ結ばれる。設置物は映像を流すディスプレイでも、投影したい物そのものでも、どちらでも構わない。
AIプレートの仕組み(2016/10/12「プレート1枚で何もない空中に映像を出現させるもう1つの「AI技術」」より) |
直近の主な採用例としては、2017年のCESでBMWのコンセプトカーに採用された。特に国外での反響が大きく、アメリカではデジタルサイネージのように利用するマーケティング用途、ドイツではBMWやボッシュ、シーメンスなど大手メーカーなどで組み込み用途の問い合わせが多い傾向が見られる、と福田社長。同技術のビジュアルの「未来感」は非常に印象的だが、タッチパネルと異なり指紋も脂もつかないため、病院や食品工場など、パネルを介した汚染が懸念される環境での利用を検討する声もある。
数年来のトライアルで、樹脂プレートでの量産を実現
これまで、国内外より多くの注文がありながら、AIプレートの製法上、大量供給は難しかった。今回、メイン素材を樹脂に変え、量産を前提とした新製法により樹脂製プレートの試作が完成した。そのお披露目が、CEATEC JAPAN 2017出展における目玉となる。量産によって価格は低減し、「従来型よりも0ひとつ少ない価格で販売できる可能性もある」(福田社長)という。従来型が1m角で約200万円前後。量産型のサイズによっては、数千円~の販売も視野に入れている。
AIプレートの素材別(ガラス・樹脂)の特性表 |
樹脂製プレートの量産にあたり、穴を正確に抜くことが大きな課題だった。直方体の穴を開ける手法では角の欠けが起こり結像に支障が出たため、三角形が残るように抜いて壁面蒸着し、その周囲をコーティングすることで解決した |
既存のAIガラス製プレートは、鏡面加工した短冊状のガラスを並べた層を重ねて形成している。樹脂プレートの場合は、特殊な形状を射出成型で作りだして壁面蒸着を行った。これにより、既存製法でコストの高かった短冊の配置作業をなくすことに成功した。ここに至るまでの道のりは平坦ではなく、福田社長は「抜き型の設計に長い年月を要し、一時は開発中止も検討したほどに苦心した」と語った。
量産対応で普及へ一歩踏み出したが、解像度や面積の広さでは、既存のガラス製の方が性能が高い。ガラスであれば1辺1m程度を作ることができるものの、樹脂製は最大辺が20cmほどだ。樹脂製は先述の車での採用など、組み込み用途での販売を想定。限られた視野角で結像することから、銀行ATMなどではセキュリティ向上などの利点もありそうだとしている。
等身大のヒトが飛び出すコンテンツも出展
前回のCEATEC出展では、JTBなど協力企業が考えるユースケースを出展した。今年は樹脂製量産対応プレートのほか、同社が製品のポテンシャルを最大限に生かしたアトラクション的コンテンツを複数出展する。
過去に映画「スター・ウォーズ」の販促で等身大レイア姫をAI技術で立体投影したいという声かけがあったものの、当時は制作できるプレートが小さく、断念した。今回は、大きな面積のガラス製プレートを用いて、反対側に立ったコンパニオンの映像が通行人の目の前に飛び出す「3D-DELZO」、画面越しに相手と視線を合わせられる「iMATCH」、物体をCG化し遠方と情報共有できる「Telepo」、5枚連続で設置される大型壁面空中サイネージといったコンテンツが用意されている。
現場では樹脂製プレートの実演のほか、既存のガラス製プレートによる空中結像のデモも行われた。筆者は別の機会に一度体験しているが、やはり空中の映像にフィードバックが返ってくるのは新鮮に感じる。組み込み用途で使えるプレートの量産対応により、街中に同技術が実装され、どのようにしてくらしに根付いていくか、注目したい。