東京大学(東大)は9月26日、脊椎動物の基本構造が5億年以上の進化を通して変化しなかった要因として、遺伝子の使い回しから生じる制約が寄与している可能性が高いことを大規模遺伝子発現データ解析から明らかにしたと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科の入江直樹准教授らの研究グループによるもので、9月26日付の英国科学誌「Nature Ecology & Evolution」に掲載された。

脊椎動物は5億年以上前に出現して以来、さまざまな形をした動物種に進化し、多様化してきたが、基本的な解剖学的特徴については、どの脊椎動物種も共通しており、体のサイズや重量、体色が多様化してきたことなどに比べると、ほとんど変化がないことが知られている。

この要因についてはこれまでの研究により、脊椎動物の基本構造を決定づける胚発生期が、進化を通して多様化してこなかったことに原因があると考えられてきたが、なぜその胚発生過程が進化を通して保存されるのかについては不明のままとなっていた。

今回、同研究グループは、脊索動物門に属する8種の動物(マウス、ニワトリ、スッポン、ネッタイツメガエル、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ホヤ、ナメクジウオ)を対象に、胚発生過程の初期から後期に渡る遺伝子の転写産物情報を超並列シーケンサーによって大規模に取得し、データ解析を実施した。

この結果、脊椎動物の基本構造がつくられる時期に働く遺伝子の多くが、その他の時期にみられるさまざまな体づくりの過程にも関わっている"使い回し遺伝子"であることが明らかになった。また、使い回し遺伝子の比率が高い発生期ほど進化的な多様性に乏しくなること、使い回しの頻度が多い遺伝子ほど生存に必須であること、他の多くの遺伝子と相互作用していること、使い回し遺伝子はより複雑な制御を多く受けていることなどもわかった。

同研究グループは今回の成果について、遺伝子の使い回しによる進化は、脊椎動物に限らず生物において広く普遍的な現象であり、進化しにくい/しやすい生物の特徴をより良く理解できるようになるものと説明している。

特定の発生時期や組織で働く特異的な遺伝子(左)と、さまざまな組織で働く使い回し遺伝子(右)。使い回し遺伝子は、さまざまな時期・場所で働く遺伝子で、脊椎動物では器官形成期にこうした遺伝子が多いことがわかった (出所:東大理学部Webサイト)