京都大学(京大)は、タンパク質と相互作用できるRNAからなる機能性ナノ構造体「RNAナノマシン」を構築し、 生きた細胞内でRNAナノマシンが機能して細胞の運命決定を操作できることを確認したと発表した。

同成果は、元 京都大学CiRA未来生命科学開拓部門の柴田知範 特任助教(当時、現大阪大学)、齊藤博英 教授らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Communications」でオンライン公開された。

DNAやRNAを扱った核酸ナノテクノロジーは細胞の機能を変えうる技術であり、これからの医療において期待される分野だ。これまで、DNAを基本にしたDNAナノマシンは開発されており、細胞の検出や化学反応の制御などに使われている。 RNAナノマシンにおいては、RNAの持つ特徴的な高次構造により、多様なナノ構造体が構築できることが期待され注目を集めている。 これまでいくつかの核酸ナノマシンが構築され報告されているが、哺乳類の細胞内で機能するナノマシンの開発は未知であり、標的タンパク質を検知して、精密に集積させることによって細胞の運命を操作できるRNAナノマシンの開発は達成されていなかった。

今回の研究では、キンクターン(K-tur)という構造を持ったRNAにK-turn結合タンパク質であるL7Aeを導入すると、約60度の角度を持った安定した構造のRNAになる特性を用いて、2つのK-turn構造と3つのRNA2重鎖を繋げて、L7Aeの導入でトライアングル状の構造を持つRNAを構築した。 これらから、RNA-タンパク質相互作用により、RNA構造がダイナミックに変化し、RNA上にタンパク質を集積できることが判明したという。

3つに連なるRNA二重鎖がL7Aeの導入でトライアングル状の構造変化になる様子下図は原子間力顕微鏡(AFM)による観察像(スケールバーは 20nm) (出所:京都大学Webサイト)

また、集積するとアポトーシスを促進するタンパク質であるCasp-8をL7Aeに取り付け、 RNAとタンパク質の相互作用でCasp-8の機能を操作できるように設計。原子間力顕微鏡でタンパク質を集積するRNAナノマシンが構築されたことを確認し、そのRNAナノマシンとL7Ae-dCasp-8を産生するmRNAをヒーラ細胞に導入して、 24時間後の細胞の変化を位相差顕微鏡とフローサイトメトリーで解析した。

すると、ヒーラ細胞内でRNAナノマシンが機能し、細胞死を促進していることが分かったという。 比較のため、L7Aeと相互作用しない変異体RNA(rckt)を用いた場合の同実験では、細胞死は促進されることなく、細胞が生き残っていることが確認できた。 これらの結果より、構築したRNAナノマシンが細胞内でタンパク質との相互作用によって細胞死を操作できる機能を持つことが明らかになったとしている。

さらに、がん細胞や幹細胞で働くことが知られており、その検出技術の開発が注目されているタンパク質(Lin28A)と相互作用するよう、RNAナノマシンの一部をpre-let-7dで置き換え、RNAナノマシンを構築した。加えて、細胞死のシグナルを制御するためにLin28AにCasp-8を繋げることによりCasp-8が機能するように設計した。

このRNAナノマシンは細胞に内在するLin28Aと結合すると、Lin28A-dCasp-8が結合できなくなるため、 細胞死のシグナルが抑制される。RNAナノマシンがLin28Aが存在しないときに細胞死を促進していることをヒーラ細胞で確認した後、 Lin28Aを導入した場合のヒーラ細胞ではRNAナノマシンが細胞死を抑制していることを確認した。さらに、元々Lin28Aが含まれるヒトのiPS細胞で同様の実験をし、 細胞死の抑制という同様の結果を得た。この実験結果によって、L7Aeだけでなく、Lin28Aとの相互作用によって細胞死を操作することが可能なRNAナノマシンが構築できたとした。

今回の成果を受けて研究グループは、RNAナノマシンは、nmスケールで構造を制御し、細胞死のシグナルを制御できるため、目的の細胞を精密に選別し、死滅させることができる手法であるとしたほか、合成RNAの導入のみで、標的細胞内においてRNAナノマシンが構築できるので、遺伝子を傷つけるリスクが低く、 安全性と有効性に優れているとしている。また、今後、このような合成RNAナノマシンの技術は、遺伝子の発現シグナルやタンパク質を検知したり、RNAの構造や機能の変化を誘導したり、 細胞の運命を操作したりする「RNA分子ロボット」として発展することが期待できるとコメントしている。