九州大学は、歯周病原因菌であるジンジバリス(Pg)菌の出す歯周組織破壊酵素ジンジパインが、ミクログリアの移動ならびに炎症反応を引き起こすことを突止めたと発表した。
同研究は、九州大学大学院歯学研究院の武洲准教授、中西博教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、英国時間9月18日に英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
歯周病の代表的な原因細菌であるジンジバリス(Pg)菌は、アルツハイマー病患者の脳内に検出され、歯周病重症度と認知症重症度が比例することも報告されており、アルツハイマー型認知症の増悪因子と考えられるようになっている。最近、研究グループはPg菌の主な病原因子であるリポ多糖によるミクログリアのToll様受容体活性化がリソソーム酵素カテプシンB依存的に慢性的な脳炎症を誘発し、中年マウスの学習・記憶低下を引き起こすことを報告したが、歯周病菌がアルツハイマー型認知症を増悪させる詳細なメカニズムについての全容は解明されていなかった。そこで、同研究ではPg菌のもう一つの主な病原因子であるジンジパインのミクログリアに対する作用を検討した。
ジンジパインは、Pg菌の産生する主要なプロテアーゼであり、生体タンパク質の分解を引き起こし、宿主細胞に傷害を与え、歯周病に関連する種々の病態を生み出すと考えられている。同研究グループがマウスの脳にPg菌を注入すると、ミクログリアは注入部位周囲に移動し、この反応はジンジパイン阻害剤によりほぼ完全に抑制された。さらに、ジンジパインはミクログリアのプロテアーゼ活性化型受容体(PAR2)を活性化し、下流の2つのシグナル伝達経路を介して移動に必要な細胞骨格変化を引き起こすことが明らかになった。また、Pg菌によるミクログリアに起因する脳炎症には、リポ多糖によるToll様受容体の活性化と、ジンジパインによるPAR2の活性化が関与していた。今回の研究から、Pg菌から分泌されるジンジパインは感染早期におけるミクログリアの反応である移動ならびに炎症反応を引き起こすことが分かった。
同研究成果から、リポ多糖に加え、ジンジパインは歯周病によるアルツハイマー病型認知症の悪化に関与するPg菌の病原因子である可能性が示唆された。ジンジパインは末梢血管での透過性を高めることが報告されており、ジンジパインが血液脳関門の透過性を高めることでPg菌の脳内への浸潤を引き起こしている可能性が考えられる。今後は、この点も含めPg菌ならびにその病原因子の脳内浸潤メカニズムについて解析を進めていくという。さらに、ジンジパイン阻害剤が歯周病のアルツハイマー病に及ぼす悪化作用を抑制する可能性についても検討したいということだ。